埼玉の「二重学籍」問題と就学相談・就学指導

埼高教川島ひばりが丘養護学校分会 櫻井 宏明

1 はじめに

 7月12日(土)「共に学び共にくらす社会をめざして 『彩の国障害者プラン21』推進のつどい」(主催:埼玉県手をつなぐ育成会などの団体と個人による「彩の国障害者プラン21推進のつどい実行委員会」)のシンポジウムで、シンポジストの一人東松山市長は「障害者が分けられているは『学校』段階で分けられていることにある。養護学校は無い方がよい。就学指導委員会が子どもたちを分ける元凶なので、来年度廃止する。」と発言して、会場から大きな拍手を浴びた。

 埼玉県では知事の「二重学籍」発言を受けて、「特別支援教育振興協議会(特振協)」が5月15日から始まった。検討事項は、「ノーマライゼーションの理念に基づく教育をどのように進めるか」というもとに、@共に育ち共に学ぶための新たな教育システムの構築について、A後期中等教育における一人一人のニーズに応じた専門教育の充実について、となっている。ここでも「就学指導の見直し」をきっかけとして新たな教育システムを構築しようという動きがみられる。

 

2 埼玉県における「特別支援教育」の動向

(1)読売新聞報道、知事の新春インタビュー

知事記者会見の概要 (教育関係)

平成15年1月7日(火)11:00−11:40

 知事 私は、新聞報道にあったように全障害児の普通学級籍の実現に全力を尽くしたい。

 かつて、平成7年にインドのアマルジョティという施設を訪問したことがある。 障害のある子もない子も一緒に歌を歌ったりなどしていた。これが本当のバリアーフリーだと思った。このことを当時の厚生省は、よく理解してくれたが、文部省は理解してくれない。教育委員会では、委員会を設けて検討していくということです。いずれにしてもこれを実現して参りたい。

 質問 (共同通信 渡辺記者) 障害児の教育(インテグレーション)について、今までの発想を逆転した素晴らしいものと思う。しかし、実現が難しいと思うが。 

 知事 それは困難を要すると思う。覚悟はしている。文科省が反対しても、やりたいと考えている。お金もかかると思う。政治は、逆転の発想が大切、このことは私の以前からの念願であった。

 青木副知事 障害児を普通学級に籍をおくことは、制度上困難があるとは思う。最低限の施設、設備も必要である。教員とかOT、PTなどの職員を配置する必要がある。どうやっていくかは、教育委員会に来年度検討委員会を作って、鋭意検討してもらうことになっている。

記事 2003年1月5日の読売新聞朝刊一面

 全障害児に「普通学級籍」  埼玉県“二重学籍”容認 2004年度にも実施

 埼玉県は、障害があるすべての児童・生徒が普通学級に在籍できるようにする制度作りの検討を始めた。法令に規定のない“二重学籍”を容認する国内初の試み。国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)が推進する「インクルージョン」教育の理念を取り入れたもので、2004年度からの実施に向け、近く国や市町村と協議に入る。

 構想では、盲・ろう・養護学校などへの入学が望ましいとされた障害児も、地域の普通学級への在籍を認める。健常児と一緒に学ぶ機会が増えるほか、運動会など学校行事を中心に、できる限り普通学級や地域社会で過ごすことを想定している。この結果、障害児、健常児の双方に、互いの個性を尊重し合う意識が高まると期待される。

 ただ、障害の程度や学校側関連の教員確保、施設のバリアフリーなどの問題から、専門のスタッフによる教育を受けた方が好ましい授業については、養護学校などに通学する。

 市町村教委はこれまで文部科学省の示す「両眼の視力が〇・一未満は盲学校」「車いすは養護学校」などの就学基準に照らし、就学先を指定してきた。しかし、2003年度から基準が「特別事情がある場合は、市町村の判断で普通学級に入学可能」と緩和されることもあり、同県はすべての子供の普通学級在籍が可能と判断した。

 これに対し文科省は、「学齢簿を編製しなければならない」とした学校教育法施行令を挙げ、二重学籍は「法の想定外。在籍者のいない養護学校の存在は考えられない」としている。同県は「現在も普通学級に入った障害児に、普通学校にある特別指導教室に通うことを認める通級制がある。この制度の援用など運用を検討したい」としている。

 同県では昨年5月現在、盲・ろう・養護学校(小・中学部)には約2400人が在籍している。


インクルージョン 英語で「包み込むこと」の意味。ユネスコが1994年に発表したサラマンカ宣言の中で、障害の有無に関係なく、すべての子供が一緒に学ぶ教育を目指すことをうたっている。

(2)「彩の国障害者プラン21」に関わって

1月31日、県障害者施策推進協議会に、県の新障害者プランの第2案が示された。昨年暮から正月にかけて、県民コメントにかけられた第1案にくらべ、あちこち修正されていた。

 とりわけ教育の分野では、「新たな障害児教育システムの整備」と題し、「障害のある児童生徒が障害のない児童生徒と共に学ぶ新たな障害児教育システムの整備について、外部の有識者も含めた検討委員会を設置して、様々な観点から検討します。」という文言が新たに書き加えられた。

 そして、この席上、教育局特別支援教育課の会田氏は、次のような異例の説明を行った。会田氏の説明によれば、公的には「法的には二重学籍は想定されていないので」と否定的な見解を述べている文科省も、その内部では「すべての障害のある子供に通常学級籍を」という方針を検討中ということである。

 「県の動きと国の動きでございますが、ご承知のとおり、1月5日の読売の全国版にですね、記事が出ました関係で、今お話しがありましたように、埼玉県がこの領域で全国のトップにたってしまいました。(笑)私どもはですね、1月5日、某所で正月迎え湯につかっておったところでございましたけれども、急遽もどりまして、仕事始めはですね、ぶっつづけの二週間でございました。まちがいなくノーマライゼーションにつきましては、埼玉県は全国のトップに突然(参加者笑)なったわけでございます。

 新障害者プラン案の40ページにございます、いちばん上の「(1)新たな障害児教育システムの整備」というこの文言がまとまったのは12月末くらい・・・。11月のですね、審議会(施策推進協議会)を踏まえて、このような文言になっておるわけでございます。ところが、これは今の段階におきましても、この文言はですね、この通りなんでございます。須田委員からもございましたように、検討委員として委嘱する『有識者とはどのような者を考えておるのか』ということにつきましては、幅広く考えさしていただくつもりでございます。教育には直接携わっている実績のない方であろうとも、教育に関してそれぞれのお立場から幅広い高い見識の下にご意見をいただけるものと考えておりますので、そういう方向で考えてございます。それと、国の全体的な動きでございますけれど、これから特殊教育といわれている分野は大きく変わってまいります。特別支援教育という概念の下に進められていく事になります。知事が申し上げましたように『すべての障害のある子供に通常学級籍を』ということにつきましては、ただいま国のほうでも検討されている内容でございます。(国で検討中の『今後の特別支援教育の在り方に関する調査研究協力者会議』(中間まとめ)を踏まえた発言と思われる。)ノーマライゼーションがですね、確実に進んでいくということの中で、私どもは昨年の、この(1)にありますようなこと、それから知事のお考えを踏まえまして、施策としてどういう風に進めていけるのかということを、国に先んじてですね、検討しなければならない・・・という状況でございます。この面では先行がないもので、まず問題点の整理から始めて参りますけれども、後で明らかになる国の施策に後んじるということのないようにですね、進めてまいりたいなという風には考えてございます。」

(3)2003年2月の県議会での知事答弁

 「障害者への施策について」でございますが、私は知事就任以来、常に「障害者の幸せなくして県民の真の幸せはありえない」との強い信念のもとに、障害のある人もない人も共に安心して暮らせるよう、「彩の国障害者プラン」に基づき、障害者に対する様々な施策を積極的に進めてまいりました。

 これまで、私は「さわやかふるさと訪問」など機会あるごとに、作業所や障害者施設などの訪問を通じまして、多くの障害者の方々とお会いしてまいりましたが、重い障害がありながらも懸命に作業や訓練に取り組んでおられる姿に感動し、またそれを支えておられます職員や御家族の方々のひたむきな努力に頭の下がる思いをいたしました。

 そうしたところから、新たな障害者プランにおきましては、ホームヘルパーやグループホ一ムなどの整備はもとより、障害者の自立と社会参加を一層支援するため、働く場の確保や、道路・交通機関・建物のバリアフリー化など、障害者に配慮した環境づくりを進めてまいります。

 また、障害のある子どもとない子どもが一緒に学ぶことを実現することについてでございますが、(中略)21世紀を担う子どもたちが、障害のあるなしに関わらず、共に学ぶことによりましてお互いの存在を認め合うことは、障害のない子どもたちに心豊かで思いやりのある心を育てるとともに、障害のある人たちを地域全体で支えあう福祉社会づくり、ひいては世界の平和の実現にもつながるものと確信をいたしております。

 この施策について、年頭の記者会見において発表いたしましたところ、実現を期待する励ましや支援の大きな声が、県内外から、いや全国からも寄せられました。私は、その反響の大きさに驚くと同時に、改めて、この施策の重要性を再認識をいたしたところであります。

 なんといっても、重要なことは、教育現場のみならず、社会全体の意識改革であります。障害があろうとなかろうと相互に人格を尊重しあうことが、今ほど重要な時はありません。障害のある子どもを「よその子」と思わず、「うちの子」、「自分の友だち」と意識するような、子どもの頃から心のバリアを持たない教育、社会づくりが大切でございます。そして、多くの方々に、「自分の子どもに障害があったとしたら」、という視点に立って考えていただきたいのであります。

 もちろん、この実現には大きな困難が伴います。しかしながら、私の政治信条として、何とかして実現したいとの思いはさらに強まっております、教育委員会における具体的な検討を踏まえながら、実現に向けた取組みを、一歩一歩進めてまいりたいと考えております。

(4)特別支援教育振興協議会の開催

1 趣旨    ノーマライゼーションの理念に基づく教育の推進について検討を行うための協議会を設置し、検討結果の報告を求める。

 

2 委員構成  27名程度(学識経験者、施設・行政関係者、学校関係者)

 

3 日程  年間4回開催

○第1回 5月15日(木)

○第2回 7月中下旬

○第3回 8月中下旬→中間まとめ

○第4回 10月下旬→最終報告

 

4 検討課題

○ ノーマライゼーションの理念に基づく教育をどのように進めるか

・共に育ち共に学ぶための新たな教育システムの構築について

・後期中等教育における一人一人のニーズに応じた専門教育の充実について

 

 

 5月15日、「埼玉県特別支援振興協議会(特振協)」の今年度の第1回会議が開催されました。

 埼玉県特別支援振興協議会は、本県の特別支援教育に関して県教育委員会の依頼した事項について検討するために設置されています。協議会の構成は、学識経験者、施設・行政関係者、学校関係者など27人から成ります。

 今回の第1回目の会議で、今年度の委員長に東洋大学教授・宮崎英憲氏、副委員長に明治学院大学教授・金子健氏が選出されました。

 今年度、同協議会に検討していただく内容は、「ノーマライゼーションの理念に基づく教育をどのように進めるか」です。具体的には、「1 共に育ち共に学ぶための新たな教育システムの構築について」と、「2 後期中等教育における一人一人のニーズに応じた専門教育の充実について」の2項目を検討していただきます。

 5月15日の第1回会議では、委嘱状交付、委員長等選出、検討事項説明、小委員会設置等が話し合われました。

 今後、2つの検討項目について、本会議に平行して2つの小委員会で専門的な議論を行っていくことになります。そして8月の中下旬ごろに「中間まとめ」を行い、10月下旬ごろに「最終報告」を行う予定です。

 「中間まとめ」については、県民の皆様からの意見を求めていきます。

3 広がる親の期待と不安 

『二重学籍』問題に対しての意見(抜粋)

2月埼玉県障害児教育振興協議会理事会 資料より

<団体からの意見>

・障害児学校と通常の学校のどちらが親学校になるのか、その間の通学の手段は、卒業や入学の形式は、本人が選択できるのか、障害児学級の位置付けは、養護学校が縮小されるのか等、心配される。「どの子も普通学級がよい」という考え方は親として納得できない。財政的に人・施設設備の保障が大切。逆にそれがないと障害児教育の後退につながる。この問題を考えるとき、養護学校義務制など障害児教育の成果や歴史をきちんととらえるべき。二重学績そのものが反対ではないが、充分に慎重に論議をすすめないと結果としてこれまで築き上げてきた障害児教育が後退することになってしまう。

・知事が障害児教育に関心をもつようになったことは評価できるが、どこまで障害児教育を理解しての発言なのか、教職員の人件費や施設設備の改善などの予算を本当に付けられるのか心配である。通常の小・中・高校及び障害児学級、PTA、校長会、職員団体、障害者団体などの意見を充分きき、国の法令などにもとづき慎重に研究・検討すべき。

・埼玉県が、学校現場はもとより、障害児教育に行政として直接責任を負う特教課と何の遵絡もとらずに、知事のトップダウンでこのような重大問題を決めていく手法は大問題。現在の学校現場の状況を考えると通常学級に在籍する障害児への教育条件整備や教職員加配さえも極めて不十分なばかりか、通常の学級そのものが困難な教育条件のなかにおかれている。今回、埼玉県が発表した措置を性急に講じるならば、関係者や関係機関に大きな混乱を呼びおこすことは必至。また、何よりもこの制度がこれまでの関係者の努力によって築きあげてきた障害児教育をとう総括するのか、そのためにあらたに人や施設設備など財政的援助を本気で行うのか等しっかり見ていく必要がある。私たちは「二重学籍」問題については、より豊かな学習権保障をすすめるために、今後関係者が、子どもたちの現状をふまえて丁寧でより慎重な議論を重ねていく必要がある。

 

<各校のPTAより>

・居住地交流は大事だが、就学のあり方も見直されたのであえて「二重学籍」にする必要性を感じない。また、受け入れ側の整備(教材や施設・設備、教員の専門性、子どもたち・保護者の障害への理解など)も不安。

 今は、障害児学校にセンター的役割をもたせ、居住地交流をすすめながら、地域の理解と整備を進めていくことが大切。

・二重学籍にする場合、個別指導計画は障害児学校と通常の学校の両方の担任で作成しなくては意味がない。

・障害児学校で「今日はA君とB君が普通学校へ、明日はC君とD君が普通学校へ」という状況になると、学級活動や授業はなりたつのだろうか心配。

・現在、通常の学級にLDやADHDの子ともたちが在籍しているが、大変だと聞いている。その子への対応も充分でないのに本当にすべての障害児を受け入れられるのか。

・現在の学校交流はとてもよい。それが「二重学籍」がはじまると普段来ているのだからといって養護学校と通常の学校の交流がとうなるのか心配。

・いままで培ってきた障害児教育の成果を充分に発展させる形での改革を望んでいます。

・理念としてはすばらしいがお金もかかることだし、すべての障害児が普通学級に籍をおくことを望んでいるわけではないので、希望する場合のみに限定し、その受け入れ体制(親が付き添うなどの責任にならないように)を整えることが大切ではないか。

・なんでも地域任せになってしまう中で国や県の責任があいまいになり、地域ごとに格差が出てしまうことが心配。

・「二重学籍」に期待することも多々ある。しかし、その場合でも「二重学籍」にする場合の教育目標を明確にしないと、各学校ごと・単年度ごと・行事ごとなど統一的・継続的・長期的な指導にはつながらない。

・通常学校の施設設備の充実が大前提。⇒障害児の送迎用のパス、スロープやエレベーター、トイレ手摺り、給水施設、障害児用の教材・教具など

・養護学校、障害児学級の分類を細かくして、多くの教員を配置し、障害児一人ひとりにより細かい指導を行政の責任ですすめてほしい。

・「二重学籍」は健常者との交流がすすむメリットもあるが、デメリットとしては@子どもが「お客様扱い」になるのでは A学習内容等が違うため、つけるべき力がつかないのではと心配。

・当事者である保護者になんら説明もなく、新聞報道から流れたことに憤りを感じる。軽度の子にとっては意義もあると思うが、最重度の子にとっては余程きちんと体制が整わないと対処できないのでは。

・ノーマライゼージョンの理念は、日常生活において障害をもつ人のさまざまな要求が、もたない人と同様に自然に満たされていくこと。その意味では、「二重学籍」は意味があることだと思う。

・基本的には賛成だが、実際の受け入れ体制が整っていないことに危惧を感じる。30人学級など少人数学級を実現させ、子どもも教員もゆとりをもたせ、障害についての理解を広め(保護者含めて)、人的配置や移動手段の補助、設備のパリアフリーなどをすすめてからでもいいのではないか。

・学籍を二重にするよりも養護学校と普通校との交流をすすめてほしい。いまのままだと逆に障害児は「お客様」「お世話される側」だということになり、とても心配。

・理念はいいが、知事の意見をうけ県だけが突っ走っている感じ。市町村教育委員会などには充分情報も伝わっていない。

・特振協で論議されるということですが、ぜひ施設設備・教職員定数・養護学校の投割など充分な論議をすすめてほしい。

・「どの子も普通学級」などの統合教育という流れに危惧も感じます。障害児学校のいい面をしっかり理解して欲しい。

・インクルージョンやノーマライゼーションなとの理念はすばらしいが、この問題は奥が深く簡単に「二重学籍」で解決できるものではない。理念だけではうまくいかない問題の方がたくさんある。普通学級の充実も障害児教育専門の教員や施設設備のある障害児学校の充実も両方とも大切だと思う。

・地元の小中学校に通えれば、親は送迎の時間的・経済的・体力的負担は軽くなると思う。しかし現在、普通学級の中にも不登校・いじめ・学級崩壊・学力低下・教師の指導力・校舎の老朽化・放課後や休日の過ごし方などさまざまな問題がある。もちろん障害児学級や学校にも問題はあります。その意味で教育の中味などに応じて、二ケ所に通う子どもの負担は計り知れないものだと思う。また、一クラスに盲、ろう、知的、肢体、病弱やそれらの障害の重複している子などが入って、すべてに子に対応できるのですか。理念の実現はそんな簡単ではありません。二重学籍の前に行政はすることがたくさんあります。

・障害児が地域の学校に通うことを望む保護者は多いと思う。我が子を普通の子と同じように普通の生活をさせてあげたい。友達や兄弟と同じ学校に。障害のない子と学ぶことは理想だから。地域で育てたい・・・。いろいろ考え方はあると思う。しかし、子ども自身はどう思っているのだろうか。その学校は楽しいか、勉強はよくわかるか、無用な気遣いばかりしていないか、自分の出番はあるのだろうか、かわいそうという目でみられていないか・・・。障害児が健常児の「教材」になっていないか(お世話係り、おもいやりを育てるなど)。地域の学校にいくことが当たり前という思い込みは、障害にあわせた教育をしている障害児学校の良さを逆にみえなくしているのではないだろうか。むしろ障害児学校など障害にあわせた専門の学校を小規模にして地域につくるとか、また「二重学籍」そのものは否定しないが、障害児学校の発展の上にあるものであってほしい。

4 埼玉での特徴と問題点

(1)県知事選挙がらみの日程、総括や現状分析の欠如

・障害の重い子の教育が保障されているとはいえないインドの施設をモデルにした知事の発言。

・特振協の論議は半年弱で最終報告を出さねばならない。今までの「特振協」では一つのテーマを2年間かけて論議してきた。今回は来年の知事選(今年になりましたが)、来年度の予算編成の日程などを勘案しての特振協の日程となっている。

・今までの障害児教育の到達点の総括や現状の分析が十分でないままに論議されている。例えば、当初LD、ADHD、高機能自閉症などの子どもたちのことが議題にならなかった。学級不足問題を棚上げにした高等養護学校構想。

・養護学校に足を運んだこともない特別支援教育課の担当者。埼教組や特殊学級設置校長会の代表を排除し、障害児学校のことを全く知らない委員も入れた構成。

(2)障害児教育のリストラ

 いつの間にかインテグレーション、インクルージョンのための教育条件整備の課題が軽視され、「ダンピング」の危険性が大きくなってきた。

・障害児学級や障害児学校をつぶし、その予算や「人的資源」を振り分ける。

・一つの養護学校の校区にある小学校・中学校・高校の数は? 

 

(3)共生・共育論の影響

・福祉と同じパラダイム=理論の枠組み(ノーマライゼーション)で教育を論じていいのだろうか?

・雇用・就労問題などすべての障害者差別問題の元凶を学校教育での就学問題に還元する論調が見られるが、養護学校をなくし、統合を進めればすべてが解決するのか。

・市町村段階での就学指導委員会が危ない。

2003年6月 日

埼玉県特別支援教育振興協議会委員長 宮崎英憲様

同     第1小委員会 委員長 金子 健様

 

委員 井上礼子(埼玉県手をつなぐ育成会理事)

委員 武井英子(埼玉障害者自立生活協会理事)

 

意 見 書

 

 埼玉県障害者施策推進協議会の意見書を受け、「彩の国障害者プラン21」では「障害のある人々が社会を構成する一員として障害のない人と分け隔てられることなく」という言葉が基本理念として盛り込まれました。そして土屋知事の「全障害児普通学級籍」宣言をきっかけに全国で初めて教育のノーマライゼーションを正面に据えた、《共に育ち、共に学ぶ教育の充実》が計画の中に位置付けられました。そして「障害児が普通学級で共に学ぶことができる教育の促進」のため「特別支援教育振興協議会」が設置されました。この協議会において、知事の発言を後退させる事なく、「彩の国障害者プラン21」の理念を具現化し、埼玉から全国に発信してゆくことが問われていると考えます。以下本協議会でぜひ検討していただきたい課題を挙げさせていただきます。

 

1. 子どもたちの就学に際しては、原則通常学級の確認を行うこと

 

 学校教育法施行令が改定され、市町村教育委員会の判断により、「盲・聾・養護学校対象児」であっても、受け入れ体制がある場合に限り「認定就学者」として受け入れてもよいことになりましたが、基本的には学校教育法施行令22条の3(別表)により、「盲・聾・養護学校適」と判断された児童については、《原則分離・例外統合》という基本ラインは何ら変わってはいません。

 知事の「全障害児の普通学級籍」宣言は、障害の有無・程度にかかわらず、すべての子どもは地域の通常学級に在籍することが原則であることを確認したものです。障害があることによって一定の基準に基づき、行政が「あなたは養護学校で学ぶべき子=通常学級にいるべきではない子」とレッテルを貼り、教育の場を分け隔てることは差別であることを自覚するべきです。

 原則は通常学級であることを確認した上で、希望がある場合は例外として特殊学級や盲・聾・養護学校へ通うこともできるとすべきではないでしようか。これまで共に育ち学ぶ体制をとってこなかったため、特殊学級や盲・聾・養護学校を希望せざるをえない場合がほとんどであり、その意味ではこれらの状況は、学校・教育委員会の力不足として認識すべきことだと思います。

 

2.分け隔てるための判定機関である「就学指導委員会」はただちに廃止すること

 

 文部科学省の通達によって設置されてきた県と市町村における「就学指導委員会」は、障害の種別・程度により特殊学級や盲・聾・養護学校へ、障害のある子どもたちを分け隔てるための判定機関です。地方分権一括法により、通達が失効しているにもかかわらず、規則や条例により存続しているのが実態です。通常学級を希望し、通常学級で生活している子ども達に対して、執拗に「養護学校適」などのレッテルを貼り続けてきた差別性を振り返り、埼玉県就学指導委員会はただちに廃止し、市町村に対しては廃止を呼びかけるべきです。教育委員会が率先して「特殊学級適」とか「養護学校適」などの判定をしているそのことが、知事発言そのものを真っ向から否定していることを認識する必要があります。

 

3.共に学び育つことを応援する「就学相談委員会」(仮称)の設置を検討すること

 

 障害のある子どもたちが、通常学級や地域で共に学び育つための環境整備を行う「就学相談委員会」(仮称)設置を検討すべきです。「就学相談委員会」(仮称)は学校や教育・福祉・保健など 行政、関係機関、障害者団体などの連携により運営し、特殊学級や盲・聾・養護学校を希望せざるを得ない場合も、その子が地域から隔絶しないよう、居住地交流などのとりくみを応援していく必要があります。

 

4.共に育ち学ぶための実態把握をすること

 

 すでに埼玉県内には2000〜3000人の障害のある子どもたちが、地域の通常学級で生活している実態があります。そして各市町村レベルでは現場に即して施設整備や人的配置に取り組んで来ていますが、県教育局はそれらを知りながらも、その実態把握をこれまで避けてきました。共に育ち学ぶために必要な応援策は、子どもによっても現場によっても様々です。性急に一律の施策を押し付ける事なく、まずは実態把握をし、現場の声に耳を貸し、柔軟性のある相談支援体制をとる必要があります。

 

5.定員内不合格を止め、高校の門戸を広げること

 養護学校高等部が膨れ上がり、高等養護学校の設置ばかりが語られていますが、その大きな原因の一つは県立高等学校が「能力・適性」を理由に障害のある子の入学を拒否して来たことにあります。県教育局が「定員内不合格は本来あってはならない」と確認しながらも、いっこうに改善されないのはなぜでしょうか。また各校に対する県教育局の通知の中には「介助員をおくことはできない」などの欠格条項とも言える文章が存在しつづけることそのことがまず大きな問題です。「全障害児の普通学級籍」を市町村に対して提案していくのであれば、まずは直接県教育局が管轄している県立高校でのノーマライゼーションを進める努力をする必要があります。

5 埼高教障害児教育部の取り組み

(1)埼玉県の「すべての障害児に普通学級籍」構想について (見解)

 

 「読売新聞」は1月5日付の一面で、「埼玉県は、障害のあるすべての児童・生徒が普通学級に在籍できるようにする制度作りを始めた」とする記事を掲載しました。さらに、7日、埼玉県土屋知事は年頭の記者会見で「盲・ろう・養護学校に通う障害児が普通学級にも籍を置き、障害のない子とともに過ごせる『二重学籍』の実現に向けて、『文部科学省が反対しても実現したい』と強い意欲を示した」(埼玉新聞)と、各新聞が一斉に報じました。

 障害児教育の制度を全面的に変えるこのような重大な内容が、学校現場を飛び越えて、関係者への説明や論議もないまま、突然、新聞発表されたことに、私たちは強く抗議をするものです。

 埼高教障害児教育部はこのことに抗議し事実関係を確認するために、1月6日に教育局特別支援教育課(特教課)を訪ねたところ、驚くべきことに、特教課はこの記事の内容については、全く関知しておらず、「わからない。私たちも調べている」、「12月25日の交渉の回答(学校教育法施行令改正に伴う『認定就学者』を認める『特別な事情』とは国の通知の範囲、すなわち『施設・設備が整備されている』ことと『専門性の高い教員が配置されている』ことが条件である。就学指導のあり方は従来と変わるものではなく、より一層適切に行えるよう努力していく)が特教課としての正式な見解」と回答しました。

 埼玉県が、学校現場はもとより、障害児教育に行政として直接責任を負う特教課と何の連絡もとらずに、知事のトップダウンでこのような重大問題を決めていく手法は断じて認めるわけにはいきません。

 新聞記事によると、県は「すべての子どもの普通学級在籍が可能と判断」し、サ ラマンカ宣言やインクルージョンを一面的に曲解しながら、すべての子どもが一緒 に学ぶ教育をめざして、2004年度実施にむけて協議にはいるとしています。しかし、そもそもサラマンカ宣言は、可能ならいつでもどこでもすべての子どもは一緒に学ぶべきだとしながらも、特別な学校や学級をまったく否定しているわけではありません。通常の学校や学級で適切な対応ができない子どもに対し、最適な教育を提供できる機関として特別な学校や学級の存在を重視していることを付け加えておかなければなりません。また、そこで強調されている包含するという意味のインクルージョンという概念も、健常者のいる場そのものを豊かにすることによって特別なニーズに対応すべきであるという考え方です。つまりサラマンカ宣言やインクルージョンの本質は、多様なニーズをもつ子どもたちの個々のニーズに応じた教育保障することと捉えるのが正しい理解です。

 現在の学校現場の状況を考えると、通常学級に在籍する障害児への教育条件整備や教職員加配さえも極めて不十分なばかりか、通常の学級そのものが困難な教育条件のなかにおかれています。今回、埼玉県が発表した措置を性急に講じるならば、関係者や関係機関に大きな混乱を呼びおこすことは必至です。また、何よりもこの制度が、これまでの関係者の努力によって築きあげてきた障害児教育を、「コスト論」に基づいて全面的に解体しようとする国レベルでの安上がりの障害児教育政策と結びつくならば、重大な問題であると指摘せざるを得ません。

 

 私たちは、一人ひとりの障害と発達に応じて必要な教育内容と教育条件が保障されるべきであると考えています。それは障害のある子どもたちを「教育を受ける権 利」、「発達する権利」の主体として捉え、憲法・教育基本法に基づく普遍的な教育の推進とそのための特別な手立ての保障、すなわち「権利としての障害児教育」推進の立場によるものです。その意味で、すべての障害児に学校教育を保障した1979年の養護学校義務制実施、それを契機としたその後の養護学校建設や教育条件整備の運動のなかで前進させてきた障害児教育と障害児学校は、まさに国民共有の「宝」というべきものです。

 また、私たちは先頃、障害児教育における20世紀の到達点をふまえ、より充実・発展させる立場から、『埼玉の21世紀の障害児教育に対する提言』(提言)を発表しました。提言は、「特別ニーズ教育圏構想」、「基礎教育圏ごとの小規模養護学校の建設」など障害児教育の条件整備を全面的に進めていくなかで、「特別なニーズ教育を必要とする子どもについては、必要に応じて二重学籍を認め」、さらに学籍を両校でカウントし、「教職員配置や教育条件整備を進めさせる」と述べています。私たちは「二重学籍」問題については、より豊かな学習権保障をすすめるために、今後関係者が、子どもたちの現状をふまえて丁寧でより慎重な議論を重ねていく必要があると考えています。

 私たちは「権利としての障害児教育」を発展させる立場から、今後とも父母・教職員・関係者と堅く手を結び、豊かな教育内容の創造と教育条件整備のために全力で運動をすすめる決意をあらためて表明します。

2003年1月10日

   埼玉県高等学校教職員組合 障害児教育部

(2)国の「今後の特別支援教育の在り方(最終報告)」と県の特別支援教育振興協議会の開催についての埼高教障児部の見解

障教部NEWS2003年6月号(2003.6.19)

すべての子どもたちに豊かな教育を<その1>

 3月28日、文科省の特別支援教育調査研究協力者会議は「今後の特別支援教育の在り方(最終報告)」を発表しました。今後、国はこの方向にもとづき学校教育法・教育免許法や義務教育標準法などの「改定」をすすめ、遅くとも2010年までに障害児教育をめぐる新制度を完成させるといいます。

 この方向の最大の問題点は、「近年の国・地方自冶体の厳しい財政事情等を鑑みれば、人的・物的資源の量的な拡充を単純に図るという考え方は現実的でない」という考えで新制度を提言していることです。もちろんLDやADHD、高機能自閉症の子どもへの教育的な対応や地域の総合的な支援体制をあげている積極的な側面もありますが、あらたな人的・物的支援(つまりお金をかけず)なしでそれらの見直しで行うのであれば、これまで私たちが築き上げてきた「権利としての障害児教育」のリストラにつながることに危惧を覚えないわけにはいきません。

 報告では、@特殊教育の基盤整備は完了した点、ALD等の子どもへの教育的な対応をあらたに提言したにもかかわらず、教育条件の整備は行わず、既存の特殊教育資源を最大限に活用するとした点、B固定式障害児学級と通級指導教室を廃止し、特別支援教室を置くとした点(障害児学級に在籍した子は通常学級籍となり、薄められ値切られた教育を受けることになる)、C盲・ろう・養護学校から特別支援学校にかわり、人的物的条件整備のないまま地域の特別支援教育センター的役割を担わされる点など、多くの問題点が述べられています。

 また、埼玉県では知事の「二重学籍発言」を受けて、特別支援教育振興協議会(特振協)が5月15日からはじまりました。検討事項は「ノーマライゼーションの理念に基づく教育をどのように進めるか」として、@共に育ち共に学ぶための新たな教育システムの構築についてA後期中等教育における一人ひとりのニーズに応じた専門教育の充実についてとなっています。

 国の動向とあわせて埼玉の場合、知事発言の影響を受けて学籍問題を中心に「どの子も普通学級へ」などの運動が急テンポで進められている点に大きな特徴があります。

 

<特振協の問題点>

(1)メンバーの選出について

 これまでと比べて学校関係者が大幅に削られており(埼教組と特殊学級設置校長会なども入っていません)、障害児教育について理解している方が少ない。小委員会の議論を見ても、障害児教育の実態をしっていての意見がほとんどないという状況になっています。

 

(2)協議の期間について

 これまで埼玉の障害児教育の方向性を決める特振協は最低でも二年間かけてていねいな論議を積み重ねてきました。それが今回わずか半年で結論をだすということで非常に拙速で乱暴な進め方になっています。

 

(3)議論の方向について

 LDやADHD、高機能自閉症の子どもたちは、国の調査を見ても全児童の6%が通常学級で学んでいます(埼玉では約36000人)。今回の特振協ではLDやADHDなどの子どもの施策が全くなく、学籍動向に問題が矮小化されている点などがあげられます。

 障害児教育において何よりも大切なのは、学籍の動向や「理念」の優先でなく、一人ひとりの障害児が、その発達と障害、特別な教育的ニーズに応じて学習権が保障されることが最優先に検討されなければなりません。障害児教育及び通常の教育をとりまく現状の問題をそのままにして、障害児を通常の学級に無原則に在籍させることは、障害児への重大な人権侵害であると同時に、「教育のスリム化」「市場原理」「自己責任」を押しつけるものであり、教育の公的責任の放棄につながるものです。

 『すべての子どもたちのいのちと瞳輝く教育を』めざして、これまで父母・教職員・行政が力をあわせて、障害児教育を前進させてきました。障害をもつ子どもたちの実態は多様です。どの子も、学び成長する権利、学校生活のあらゆる活動に主人公として参加する権利をもっています。養護学校の教室不足・給食の民間委託・寄居養護学校の存続をはじめ、今なお障害児の教育は多くの課題を残しています。一人ひとりの子どもたちを大切にする教育の実現のためには、障害児学校・障害児学級・通級指導教室や通常学級など、あらゆる「場」における教育条件を整備・充実し全体としてシステム化することが不可欠です。財政難を理由に教育を後退させることがあってはなりません。

 今後、障害児教育の関係者一同が集い、このような危険な動きを学習し、私たちの願いを束ね、障害児教育の豊かな発展のために力をあわせて運動をすすめていくことが緊急に求められます。

(3)「8・22すべての子どもたちにゆきとどいた教育を」県民集会

どうなる?どうする?障害児教育

〜学び合おう!語り合おう!シンポジウム〜

時間: 13:30〜16:00 

場所: さいたま市民会館・浦和 7F

    @LD・ADHDの親の立場から

    A障害児学級・通級指導教室から

    B障害児学校から

    C通常学級から

〈実行委員会団体〉

 埼玉県教職員組合 障害児教育部

 埼玉県高等学校教職員組合 障害児教育部

 障害者の生活と権利を守る埼玉県民連絡協議会

全国障害者問題研究会埼玉支部

 

■ 私たちの願いを束ね、力をあわせて障害児教育の運動をすすめていきましょう 

 障害児教育において何よりも大切なのは、学籍の動向や「理念」の優先でなく、一人ひとりの障害児が、その発達と障害、特別な教育的ニーズに応じて学習権が保障されることです。障害をもつ子どもたちの実態は多様です。どの子も、学び成長する権利、学校生活のあらゆる活動に主人公として参加する権利をもっています。

『すべての子どもたちのいのちと瞳輝く教育』をめざして、これまで父母・教職員・行政が力をあわせて、障害児教育を前進させてきました。 しかし、今なお障害児の教育は多くの課題を残しています。 一人ひとりの子どもたちを大切にする教育の実現のためには、障害児学校・障害児学級・通級指導教室や通常学級など、あらゆる「場」における教育条件を整備・充実し全体としてシステム化することが不可欠です。 財政難を理由に教育を後退させることがあってはなりません。

 今後、障害児教育の関係者一同が集い、私たちの願いを束ね、障害児教育の豊かな発展のために力をあわせて運動をすすめていくことが大切です。

 

■「特殊教育」から「特別支援教育」で障害児教育は大丈夫?

 いま、障害児教育は大きな転換期を迎えています。文部科学省などは「『特殊教育』から『特別支援教育』へ」といっていますが、この「特別支援教育」はどういうものになるのでしょうか? 文部科学省が発表した「今後の特別支援教育の在り方(最終報告)」などでは、LDやADHD、高機能自閉症の子どもへの教育的な対応や地域の総合的な支援体制などの積極的な側面がありながらも、新たな施設設備の整備や人的な配置を行わないことを前提にすすめるといっています。

     ※     ※     ※

 また、埼玉県では知事の「二重学籍発言」を受けて、特別支援教育振興協議会(特振協)が5月15日からはじまり、この秋までに今後の障害児教育の方向性を答申しようとしています。検討事項は「ノーマライゼーションの理念に基づく教育をどのように進めるか」として、@共に育ち共に学ぶための新たな教育システムの構築について A後期中等教育における一人ひとりのニーズに応じた専門教育の充実についてとなっています。

 しかし埼玉の場合、知事発言の影響を受けて学籍問題を中心に、しかもわずか半年で結論をだすということで、「子どもにあわせた学校づくり、授業内容づくり」という障害児教育が蓄積してきた成果をふまえたものになるのか、“いま”の課題に応えるものになるのか、とても心配です。

 

■ 埼玉の障害児教育をめぐる課題は

1.LDやADHD等の特別な教育的ニーズを必要とする子どもたちへの対応をすすめること

 LDやADHD等の児童数について埼玉県教育委員会は調査をしていません。したがって正確な数字はわかりません。しかし、「最終報告」によれば全児童の6%程度の割合で通常の学級に在籍している可能性があるといっています。埼玉の義務教育段階の児童生徒数は604,396人なので、その6%は約36,000人となります。盲ろう養護学校、小中学校特殊学級および通級指導教室で学ぶ児童生徒の合計は約7200人なので、その約5倍にあたります。

 現在、県は「学習障害児等への特別支援教育の推進」の施策を掲げていますが、約36,000人をカバーする施策にはほど遠いものです。特振協でもその子どもたちへの対策は何ら論議されていません。また、通常学級で学んでいる特別な手立てを必要としている子どもたちの現状把握と施策も不十分です。

 

2.障害児学級、通級指導教室をなくさないでいっそうの教育条件整備をすすめること

 障害児学級は小・中学校に設置され身近にあり、障害や発達の課題に即した教育を受けることのできる場として期待は高まり、児童生徒数は年々増えています。数が増えただけでなく、頻繁に援助を必要とする子から一部必要な子まで在籍し、学年も複数以上のことが多いことから、教育活動に困難を抱える学級は少なくありません。児童生徒数8名までが1学級・担任1名、これが現在の基準ですが、これでは、障害児学級の課題に応えることはできません。県からの特別加配はありますが少なく、市町村の介助員等の配置で維持されている実状です。また障害児学級の設置校数が少なく、学校を選ぶ上でも通学にも支障をきたしています。通級指導教室も基準が曖昧であり、一担当者が20名以上受け持つことが多く、児童からいえば指導時間が文部科学省が示したものより少ない状況です。

 文部科学省は障害児学級をなくすことを具体化しようとしていますが、なくすのでなく、障害児学級や通級指導教室の教育条件を抜本的に整備するとともに、多くの学校に設置することが必要です。どの学校にも障害児教育の砦としての障害児学級や通級指導教室があることにより、通常の学級で学ぶ障害児や特別な教育的ニーズのある子どもたちにも必要な手だてを加えることができます。

 

3.養護学校の深刻な教室不足!その解決のためにあらたな学校建設を早急にすすめること

 今年度、東松山養護学校・久喜養護学校で校庭などの敷地を削って校舎増築(6教室)が予定されています。また、県当局は教室不足の解決策として「高等養護学校」の新設を想定しています。

 しかし、それだけでは県南部の養護学校で深刻になっている小中学部児童生徒数の急増には対応できません。抜本的な解決には小中学部を備えた養護護学校の新設が必要です。

 

4.病弱養護学校の統廃合をやめ、病弱教育を発展させること

 肢体不自由養護学校での病気入院児への訪問教育が制度化され2年がたとうとしています。医療機関や通常の学校に施策が周知されているとはいえず、訪問を受ける入院児の数はまだ少数です。しかし、「学習空白を埋める」だけでなく、入院中の子どもの精神的な支えとなって精神的ストレスを緩和・解消するケースもあるなどの成果が報告されています。ニーズの高さははっきりしました。しかし、実施校には病弱養護学校が含まれていません。病弱養護学校を統廃合するのではなく、病気入院児への教育保障も含めて地域の病弱教育のセンターとしての役割が期待されています。

 

5.医療的ケアを必要とする子どもが安心して通えること

 経管による栄養補給や痰の吸引などの行為は「医療的ケア」と呼ばれています。70年代の周産期・新生児医療の前進、医療機器の発達、家庭や地域で医療を受けるという理念の発展などに支えられて、80年代半ばから学校で医療的ケアを必要とする子どもの問題が顕在化してきています。

 埼玉県でも01年度から非常勤の看護師を配置することを柱とした「メディカルサポート事業」がはじまりました。しかし、非常勤のために教員などとの情報交換などの時間がとりにくいという問題があります。また、泊を伴う行事などでは医療スタッフの同行は制度化されておらず、保護者が自主的に看護師などを同行させているのが現状です。

 

6.障害をもつ子どもたちの後期中等教育をもっと豊かに対応できる場を増やすこと

 現在、埼玉県の高校進学率は97%をこえています。しかし、障害などをもつ子どもたちの場合、人員や施設など制度的に対応できるのは障害児学校の高等部のみという状況になっています。高校では施設・設備、教職員定数、教育課程いずれをとってみても、通常の教育条件しか備えておらず、特別なニーズにこたえる具体的な施策はありません。現に通常の高校に通っている場合でも、その本人・保護者とその学校の努力で対応しているのが現状です。

 

【図1】埼教組・埼高教などで構成する政策委員会資料

【図2】第1回特振協第1小委員会の資料から

 

 

  

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