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1 はじめに 7月12日(土)「共に学び共にくらす社会をめざして 『彩の国障害者プラン21』推進のつどい」(主催:埼玉県手をつなぐ育成会などの団体と個人による「彩の国障害者プラン21推進のつどい実行委員会」)のシンポジウムで、シンポジストの一人東松山市長は「障害者が分けられているは『学校』段階で分けられていることにある。養護学校は無い方がよい。就学指導委員会が子どもたちを分ける元凶なので、来年度廃止する。」と発言して、会場から大きな拍手を浴びた。 埼玉県では知事の「二重学籍」発言を受けて、「特別支援教育振興協議会(特振協)」が5月15日から始まった。検討事項は、「ノーマライゼーションの理念に基づく教育をどのように進めるか」というもとに、@共に育ち共に学ぶための新たな教育システムの構築について、A後期中等教育における一人一人のニーズに応じた専門教育の充実について、となっている。ここでも「就学指導の見直し」をきっかけとして新たな教育システムを構築しようという動きがみられる。
2 埼玉県における「特別支援教育」の動向 (1)読売新聞報道、知事の新春インタビュー
(2)「彩の国障害者プラン21」に関わって
(3)2003年2月の県議会での知事答弁
(4)特別支援教育振興協議会の開催
3 広がる親の期待と不安
(1)県知事選挙がらみの日程、総括や現状分析の欠如・障害の重い子の教育が保障されているとはいえないインドの施設をモデルにした知事の発言。 ・特振協の論議は半年弱で最終報告を出さねばならない。今までの「特振協」では一つのテーマを2年間かけて論議してきた。今回は来年の知事選(今年になりましたが)、来年度の予算編成の日程などを勘案しての特振協の日程となっている。 ・今までの障害児教育の到達点の総括や現状の分析が十分でないままに論議されている。例えば、当初LD、ADHD、高機能自閉症などの子どもたちのことが議題にならなかった。学級不足問題を棚上げにした高等養護学校構想。 ・養護学校に足を運んだこともない特別支援教育課の担当者。埼教組や特殊学級設置校長会の代表を排除し、障害児学校のことを全く知らない委員も入れた構成。 (2)障害児教育のリストラいつの間にかインテグレーション、インクルージョンのための教育条件整備の課題が軽視され、「ダンピング」の危険性が大きくなってきた。 ・障害児学級や障害児学校をつぶし、その予算や「人的資源」を振り分ける。
(3)共生・共育論の影響・福祉と同じパラダイム=理論の枠組み(ノーマライゼーション)で教育を論じていいのだろうか? ・市町村段階での就学指導委員会が危ない。
5 埼高教障害児教育部の取り組み(1)埼玉県の「すべての障害児に普通学級籍」構想について (見解)
(2)国の「今後の特別支援教育の在り方(最終報告)」と県の特別支援教育振興協議会の開催についての埼高教障児部の見解
(3)「8・22すべての子どもたちにゆきとどいた教育を」県民集会
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■ 私たちの願いを束ね、力をあわせて障害児教育の運動をすすめていきましょう障害児教育において何よりも大切なのは、学籍の動向や「理念」の優先でなく、一人ひとりの障害児が、その発達と障害、特別な教育的ニーズに応じて学習権が保障されることです。障害をもつ子どもたちの実態は多様です。どの子も、学び成長する権利、学校生活のあらゆる活動に主人公として参加する権利をもっています。 『すべての子どもたちのいのちと瞳輝く教育』をめざして、これまで父母・教職員・行政が力をあわせて、障害児教育を前進させてきました。 しかし、今なお障害児の教育は多くの課題を残しています。 一人ひとりの子どもたちを大切にする教育の実現のためには、障害児学校・障害児学級・通級指導教室や通常学級など、あらゆる「場」における教育条件を整備・充実し全体としてシステム化することが不可欠です。 財政難を理由に教育を後退させることがあってはなりません。 今後、障害児教育の関係者一同が集い、私たちの願いを束ね、障害児教育の豊かな発展のために力をあわせて運動をすすめていくことが大切です。
■「特殊教育」から「特別支援教育」で障害児教育は大丈夫?いま、障害児教育は大きな転換期を迎えています。文部科学省などは「『特殊教育』から『特別支援教育』へ」といっていますが、この「特別支援教育」はどういうものになるのでしょうか? 文部科学省が発表した「今後の特別支援教育の在り方(最終報告)」などでは、LDやADHD、高機能自閉症の子どもへの教育的な対応や地域の総合的な支援体制などの積極的な側面がありながらも、新たな施設設備の整備や人的な配置を行わないことを前提にすすめるといっています。 ※ ※ ※ また、埼玉県では知事の「二重学籍発言」を受けて、特別支援教育振興協議会(特振協)が5月15日からはじまり、この秋までに今後の障害児教育の方向性を答申しようとしています。検討事項は「ノーマライゼーションの理念に基づく教育をどのように進めるか」として、@共に育ち共に学ぶための新たな教育システムの構築について A後期中等教育における一人ひとりのニーズに応じた専門教育の充実についてとなっています。 しかし埼玉の場合、知事発言の影響を受けて学籍問題を中心に、しかもわずか半年で結論をだすということで、「子どもにあわせた学校づくり、授業内容づくり」という障害児教育が蓄積してきた成果をふまえたものになるのか、“いま”の課題に応えるものになるのか、とても心配です。
■ 埼玉の障害児教育をめぐる課題は1.LDやADHD等の特別な教育的ニーズを必要とする子どもたちへの対応をすすめること LDやADHD等の児童数について埼玉県教育委員会は調査をしていません。したがって正確な数字はわかりません。しかし、「最終報告」によれば全児童の6%程度の割合で通常の学級に在籍している可能性があるといっています。埼玉の義務教育段階の児童生徒数は604,396人なので、その6%は約36,000人となります。盲ろう養護学校、小中学校特殊学級および通級指導教室で学ぶ児童生徒の合計は約7200人なので、その約5倍にあたります。 現在、県は「学習障害児等への特別支援教育の推進」の施策を掲げていますが、約36,000人をカバーする施策にはほど遠いものです。特振協でもその子どもたちへの対策は何ら論議されていません。また、通常学級で学んでいる特別な手立てを必要としている子どもたちの現状把握と施策も不十分です。
2.障害児学級、通級指導教室をなくさないでいっそうの教育条件整備をすすめること 障害児学級は小・中学校に設置され身近にあり、障害や発達の課題に即した教育を受けることのできる場として期待は高まり、児童生徒数は年々増えています。数が増えただけでなく、頻繁に援助を必要とする子から一部必要な子まで在籍し、学年も複数以上のことが多いことから、教育活動に困難を抱える学級は少なくありません。児童生徒数8名までが1学級・担任1名、これが現在の基準ですが、これでは、障害児学級の課題に応えることはできません。県からの特別加配はありますが少なく、市町村の介助員等の配置で維持されている実状です。また障害児学級の設置校数が少なく、学校を選ぶ上でも通学にも支障をきたしています。通級指導教室も基準が曖昧であり、一担当者が20名以上受け持つことが多く、児童からいえば指導時間が文部科学省が示したものより少ない状況です。 文部科学省は障害児学級をなくすことを具体化しようとしていますが、なくすのでなく、障害児学級や通級指導教室の教育条件を抜本的に整備するとともに、多くの学校に設置することが必要です。どの学校にも障害児教育の砦としての障害児学級や通級指導教室があることにより、通常の学級で学ぶ障害児や特別な教育的ニーズのある子どもたちにも必要な手だてを加えることができます。
3.養護学校の深刻な教室不足!その解決のためにあらたな学校建設を早急にすすめること 今年度、東松山養護学校・久喜養護学校で校庭などの敷地を削って校舎増築(6教室)が予定されています。また、県当局は教室不足の解決策として「高等養護学校」の新設を想定しています。 しかし、それだけでは県南部の養護学校で深刻になっている小中学部児童生徒数の急増には対応できません。抜本的な解決には小中学部を備えた養護護学校の新設が必要です。
4.病弱養護学校の統廃合をやめ、病弱教育を発展させること 肢体不自由養護学校での病気入院児への訪問教育が制度化され2年がたとうとしています。医療機関や通常の学校に施策が周知されているとはいえず、訪問を受ける入院児の数はまだ少数です。しかし、「学習空白を埋める」だけでなく、入院中の子どもの精神的な支えとなって精神的ストレスを緩和・解消するケースもあるなどの成果が報告されています。ニーズの高さははっきりしました。しかし、実施校には病弱養護学校が含まれていません。病弱養護学校を統廃合するのではなく、病気入院児への教育保障も含めて地域の病弱教育のセンターとしての役割が期待されています。
5.医療的ケアを必要とする子どもが安心して通えること 経管による栄養補給や痰の吸引などの行為は「医療的ケア」と呼ばれています。70年代の周産期・新生児医療の前進、医療機器の発達、家庭や地域で医療を受けるという理念の発展などに支えられて、80年代半ばから学校で医療的ケアを必要とする子どもの問題が顕在化してきています。 埼玉県でも01年度から非常勤の看護師を配置することを柱とした「メディカルサポート事業」がはじまりました。しかし、非常勤のために教員などとの情報交換などの時間がとりにくいという問題があります。また、泊を伴う行事などでは医療スタッフの同行は制度化されておらず、保護者が自主的に看護師などを同行させているのが現状です。
6.障害をもつ子どもたちの後期中等教育をもっと豊かに対応できる場を増やすこと 現在、埼玉県の高校進学率は97%をこえています。しかし、障害などをもつ子どもたちの場合、人員や施設など制度的に対応できるのは障害児学校の高等部のみという状況になっています。高校では施設・設備、教職員定数、教育課程いずれをとってみても、通常の教育条件しか備えておらず、特別なニーズにこたえる具体的な施策はありません。現に通常の高校に通っている場合でも、その本人・保護者とその学校の努力で対応しているのが現状です。 |
【図1】埼教組・埼高教などで構成する政策委員会資料
【図2】第1回特振協第1小委員会の資料から