2003坂戸パソコンボランティア 2002.09.21 09.28 ワークプラザ3階 櫻井宏明@川島ひばりが丘養護学校 |
1 障害と障害者
(1)障害を持つ人
一口に「障害者」と言ってもいろいろな人がいます。障害の種類や程度が多様であるというだけでなく、障害をもたない人と同じように、実に個性的なのです。
ところが、普段障害者と接する機会がないと、はじめは障害者の「奇異な行動」や「できないこと」ばかりに目を奪われがちです。そして、それらの原因を障害があるからだと考えてしまいがちです。場合によると、発達の遅れによっておこっている「あきっぽい」「わがまま」などの現象を障害による特性やパーソナリティと決めつけてしまうこともあります。
国際レベルでの障害者の表し方は「障害を持つ人」(person with
disability)です。これは、「障害者もいろいろな面で能力を持っていること、障害はそれを持つ人の属性の一つに過ぎない」という認識から「ひと」が強調されるようになったからです。
もちろん、障害をもったことが人格を形成する上で大きな影響を及ぼすこともあるでしょう。しかし、同じ障害をもったとしてもその受けとめ方、対応の方法は人それぞれです。したがって形成される人格も多様で、あたりまえですが、一人ひとりがみんな違って、「障害者」とひとくくりにして論じることはできません。
(2)障害とは
一口に障害といっても、さまざまな障害の種類があります。一般的には、視覚障害、聴覚障害、肢体不自由(肢体障害)というように、障害を受けた身体的部位で呼ばれています。しかし、精神障害など身体的障害が一見しては認められない障害もあります。
また障害の程度も多様です。視覚障害者であっても、全盲の人もいれば弱視の人もいます。さらに、弱視の人といっても見え方は人それぞれ違うそうです。その他の障害についても同じことがいえます。
私の友人で、草加市の小学校障害児学級を担任している品川文雄さんは、小学生に「障害」を説明するとき次のようにいっているそうです。
障害とは、脳やからだのどこかに『故障』が生まれ、この故障が生活したり、学習したり、運動したりしていく上で、『不自由さ』がある時の様子 |
ところで、私も含めて近視の人は少なくありません。これも一種の「視覚障害」ということができます。しかし、眼鏡やコンタクトレンズを使用すれば日常生活にはなんら支障はありません。したがって「障害者」と呼ばれることはありません。どうも「障害=故障を持つこと」ということではなさそうです。
障害は「故障」だけでなく、それによる「不自由さ」によって決まってきます。したがって「故障」の程度は同じでも医療やリハビリテーション(自助具や補助具の使用を含む)などによって「不自由さ」は変わります。さらに教育によっても「不自由さ」は変わってきます。また、社会のありよう(施設・設備、社会的評価など)にも大きく規定されます。
法律や行政で障害を定義することは、それに対応する施策や対策、サービスの提供範囲を定めることを意味します。従って障害の定義は、相互に関連を持ちながらも、医療、福祉、労働、教育など各分野によって変わってきます。
2001年、世界保健機構(WHO)ではそれまで障害の分類を定めた「国際障害分類(ICIDH)」にかえて、「人間の生活機能と障害の分類(ICF)」を採択しました。この特徴は、これまでのWHO国際障害分類がマイナス面を分類するという考え方が中心であったのに対し、ICFは、生活機能というプラス面からみるように視点を転換し、さらに環境因子等の観点を加えたことといわれています。厚生労働省では、ICF の考え方の普及及び多方面で活用されることを目的として、日本語訳である「国際生活機能分類−国際障害分類改訂版−」を作成し、厚生労働省ホームページ上での公表(2002.8.5より)しています。
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/08/h0805-1.html
2 肢体不自由(肢体障害)とは
(1)肢体障害の分類
肢体不自由(肢体障害)とは様々な原因によって主に手足や体幹が永続的に不自由な状態をいいます。起因疾患や障害の程度で分類することができます。
また、一度運動を学習した後に障害を受けた場合(障害の影響が出る場合)と未だに学習していない場合とに大雑把に分類することができます。前者は「代替」装置を用意することが比較的容易ですが、後者はそれだけでは解決できないいろいろな難しさがあります。
ここでは、代表的な肢体障害について簡単に説明します。
1)事故による障害
○切断、頸髄損傷など
頸髄損傷:背骨の中には『脊髄(せきずい)』という、大きな神経の束があります。脊髄は手や足を動かしたり、痛みや温度などを感じたりする神経のおおもとになり、脳とつながっています。この脊髄の一番上の部分(脳から一番近い部分)を『頸髄(けいずい)』といい、ちょうど首の骨の中にあります。脊髄からはたくさんの神経がのび、頸髄からも頸神経とよばれる大切な神経が8対のびています。この神経を通常は上からC1〜C8とよび、それぞれが身体の運動や知覚を少しずつ分担しています。「事故による首の骨の脱臼・骨折」にともなって、骨の中にある頸髄が傷つくことが頸髄損傷です。
通常、胸から下は動かすことができません。そのため立って歩くことができないので、車椅子が必要となります。腕は頸髄の傷ついた部分によって動かすことができたり、できなかったり、微妙に変わってきます。ちょうど頸髄には呼吸するための神経もあるため傷ついた部分によっては自分で呼吸ができず、人工呼吸器が必要なこともあります。また、すわった状態で左右に手をつき、おしりを浮かす動作(プッシュアップ)ができることもあります。これによりベッドから車いすへの乗り移りなどが可能となるため、とても重要な動作となります。
運動機能がマヒしている部分では、触った感覚が痛み、熱さ、冷たさなど温度の感覚が全くわかりません。このため、ケガに気づくのが遅れたり、やけどをしやすい、褥創(じょくそう:床ずれ)ができやすいなどということがあります。
腹筋・背筋をはじめさまざまな筋肉がマヒしているため、座った姿勢を保つことが非常に困難です。特にC6より上を傷つけた場合固定しておかないと倒れて転倒してしまいます。
汗が出ないため体温調節が困難です。暑さ・寒さに非常に弱く、エアコンは必需品です。また、身体を起こすと血液が下に下がってしまい、貧血をおこしやすくなります。
排泄は、排泄するときに使う筋肉がマヒしているため、通常通り行うことができません。排便に関しては、排便日を決め下剤と座薬で排便を促す方法がよく使われます。排尿に関しては、導尿法や尿道括約筋切除術、膀胱ろう造設術などの方法があります。
○成長過程での頭部外傷、溺水などの脳低酸素症
2)先天的な障害・周産期前後の障害
○欠損、形成異常
二分脊椎:「二分脊椎」は胎生初期に何らかの原因で脊椎の形成が不十分な状態から起こる障害です。脊椎の形成不全のある部位に対応した運動障害の他に、知覚の障害や、褥瘡(じょくそう)、骨折、尿路障害などの合併症を起こしやすいため、医療機関との密接な連携が必要です。
○脳性まひ(CP)など
脳の損傷による運動面の障害
脳性まひ(Cerebrel
Palsy):脳性まひは運動障害として考えると分かりやすいでしょう。脳は、外界の刺激が伝わると、それを統合・調整し、それに応じた運動の命令をだします。その命令に応じて筋が動くことで運動が実行されます。脳性まひ(CP)とは、いろいろな症状をもった一つの症候群のことで、@胎児期から生後4週間までの間に何らかの原因により脳が傷害されたために生じた手足や体幹の運動障害及び姿勢のゆがみで、Aその症状は非進行性でかつ永続的なものをいいます(1968厚生省)。生後4週以降に脳に損傷を受けた場合には原因別に、「**による後遺症」などというように、脳性まひとは区別して診断されます。
脳の損傷による症状は、運動、知的能力、てんかん、行動面など多岐にわたりますが、脳性マヒは、特に運動面で障害のあるものに対して使われます。
機能訓練などで手足を曲げ伸ばしするとき固く抵抗を感じる痙直型、自分で手足を動かそうとすると意図しない運動を伴う不随意運動(アテトーゼ)型などがありますが、一般的には両方を合わせた混合型のタイプが多く、また、年齢が上がるにつれて状態が変わっていくこともあります。障害の部位などにより、片マヒ、両マヒ(最も一般的で早産児に多く見られる)、四肢マヒ(最も重度の病型)、不随意運動型、失調型といった病型に分けられます。
従来、脳性マヒは、未熟児、仮死、黄疸が三大原因とされてきました。しかし黄疸は予防可能となり、分娩時の仮死によるものもそれほど多くありません。周産期医療技術の進歩とその広がりによりこれまで生きることのできなかった赤ちゃんの生存が可能となりましたが、ときには脳性マヒなどの障害をのこしてしまうこともあります。このようなことからこれまで以上に未熟児(早産児)が原因とされる割合が大きくなっています。
よかれと思って「頑張れ!」と励ますことで、かえって緊張が増してうまくいかないということもあるので注意が必要です。
3)疾病などによる後遺症
○感染症による脳炎後遺症など
4)進行性の障害
○筋ジストロフィーや筋萎縮性側索硬化症(ALS)など
進行性筋ジストロフィー症:いろいろなタイプがありますが、最も多いのはドゥシャンヌ型です。これは手足の体に近い部分の筋から徐々に収縮が始まり、腹筋などの体幹を支える筋がおとろえます。その結果として腰椎が前方に彎曲し、歩行が不安定になり立ち上がることも困難になります。ふくらはぎなどが一時的に肥大することもあります。徐々に筋が萎縮するので、拘縮(関節が動かなくなること)や変形の予防や筋力の低下を防ぐための訓練が重要です。また、身体の衰えに悲観的になりやすい精神面を支える配慮も必要です。
5)重複障害
二つ以上の障害をあわせ持つこと。普通は肢体障害以外に知的障害を持つ場合をさすことが多いです。
6)重度重複障害
知的障害と肢体障害がともに重いこと。
(2)障害に伴う注意点や配慮事項
1)障害は固定的ではない
障害とは、骨折などで一時的に不自由な状態にあるのとは違い、長期的に不自由な状態が継続します。しかし、その状態像は決して固定的ではありません。障害の進行や学習による成果(リハビリテーション)によって変化していきます。
したがって肢体の障害者をサポートするとき、現在どのような動きができるのか(どのような部位が、どの程度動かせるのか)という状態把握は重要なことですが、さらに今後学習すればできそうなことは何なのか(姿勢、キーボードの操作、マウスの操作)を見極めることや進行性の障害の場合、その障害の進行の具合はどうか(将来的な見通しのもとに)も重要な要因になります。
2)二次障害を防ぐ
二次障害とは、障害そのものではないが、障害があることで派生する身体的故障のことをいいます。本人は案外気づきにくいものです。まわりの人が気を配りたいものです。
自分で崩れた姿勢が立て直せない場合には、同じ姿勢や動きを長時間続けることで褥創になってしまったり、身体の変形が進んだりする危険性があります。また、脳性まひなど筋緊張に異常がある場合には同じ動作の繰り返しが筋緊張を高め身体の変形を進める要因になります。
頭を支えながら操作できるようにモニタの位置を工夫する、肘や手のひらをついてキーボードが打てるようにキーガードやパッドを工夫することで改善できることがあります。機器に人を合わせるのではなく、人に機器を合わせる発想で考えていきましょう。必要に応じて専門家(PT:理学療法士、OT:作業療法士など)のアドバイスを受ける必要があります。
普段から筋緊張の強い人は肩凝りなどに気づきにくいものです。キーボードやマウスの操作は思った以上に肩や首の筋肉が凝ったりします。専門的なアドバイスはできなくても、二次障害を引き起こさないために疲れる前に休むことを心がけるように助言したり、パソコン画面までは焦点距離が一定なので目が疲れやすいので時間を決めて、目も休ませるように助言したりするようなことはできます。
3)障害者のねがいはなんなのか
「パソコンが使いたい」「パソコンのことを教えて欲しい」ということでパソボラに依頼があるわけですが、ほとんどの人は「パソコンを使って何かがしたい」と思っているのではないでしょうか。パソコンといえども「道具」なのですからそう考えるのは当然のことです。その何かを本人が自覚している場合もあるでしょうし、自覚していない場合もあるでしょう。場合によってはサポートを続けていくうちに要求が広がってきて一人の手に負えなくなることがあるかもしれません。
とりあえず、「何がしたいのか」本人の話をよく聞くことが必要です。パソコンやネットワークについてよくわからないために、過度の期待を抱いていることも少なくありません。ときには、パソコンを使うことの限界やデメリットなどの情報も伝えることが必要です。
一人で手に負えなくなったときにはパソボラの仲間や行政機関、福祉や医療関係の機関、他のボランティア組織などとも連携していきましょう。
本人を含めて「生活の質」をキーワードに一緒に考えていきましょう。
3 情報のデジタル化と障害者
(1)情報弱者と情報の電子化
障害者は能力障害(ディスアビリティ)をもつことによって様々な社会的な不利(ハンディキャップ)を受けることが少なくありません。いろいろな情報から遠ざけられることもそのひとつです。例えば目の見えない人は、朗読してもらうか点字に翻訳してもらわなければ、文字を読むことができません。こうした情報に近づきにくい人のことを「情報弱者」とよびます。
しかし、情報が電子化されていれば音声出力装置や点字ディスプレイ(あるいは点字プリンタ)を使って出力することで、「読む」ことが、いつでも、人の助けを借りないでも、可能になります。情報のデジタル化(電子化)によって能力障害(活動)が改善され、結果として社会的不利が克服(参加が促進)されることがあるわけです。文字情報をFAXのように画像の情報として扱うのではなく、コードの情報として扱うことで、その情報を点字や音声に変換することを容易にしているのです。一人一人にあわせた情報提供がしやすくなります。
肢体に障害をもつ人でも小さな文字が読みにくかったり、発音が不明瞭な人は少なくありません。
また、電子化することで、外出が困難な障害者が家にいながらにして情報を手に入れることが可能になります。障害者が情報に近づきやすくなります。
(2)情報のデジタル化と障害者の生活
情報のデジタル化は障害者の生活を大きく変える可能性を持っています。とりわけインターネットの進展は障害者の生活を大きく変える可能性を持っています。
先に述べたように一つにはコミュニケーションの可能性を拡げることです。インターネットによる電子メールなどです。
身体障害などによって言語障害や文字を書くことの困難性があっても、電子メールなどにおいてはそうしたハンディキャップを補える可能性があります。身体が不自由でキーボードやマウスの操作が困難な場合には、それを補う入力装置を使います。その場合、オンライン上で障害を意識することはありません。たとえ入力に時間がかっても電子メールや電子掲示板でのやりとりには支障がありません。性別、年齢などはもちろん、障害の有無も意識せずにコミュニケーションができます。実際に会うまで相手が障害者であることに気づかないということさえあります。障害者と健常者とのコミュニケーションのバリアフリーを容易にします。
二つめは情報収集です。今日、行政情報の主なものはホームページで発信されるようになっています。URLというホームページの住所を知らなくても、検索エンジンを使えば情報の検索も比較的容易です。
三つめは情報発信の可能性を拡げたことです。
インターネットなどによる情報ネットワークの魅力はなんといっても「コミュニケーション」です。障害者であっても比較的容易に情報の発信者になれます。インターネット上では比較的容易に行政機関や大企業と肩を並べて個人での情報発信が可能です。
(3)情報保障を進めるボランティア
坂戸にも障害者の情報保障を進めるボランティア団体がたくさんあります。
・点訳(墨字を点字に変換する)
・拡大写本(大きな文字の本をつくる)
・デイジー図書(デジタル情報を含んだ本の朗読データ)
・PC要約筆記(パソコンを使って聴覚障害者のための要約筆記を行う)
これらのほとんどでパソコンの利用は欠かせないものになっています。
「点訳(点字に変換すること)」というと、点字の専門的な知識が必要で誰でも簡単にできるものではないと思われがちですが(実際の点訳ではパソコンと専用のソフトが欠かせないと聞いています)、「情報の電子化」ならキーボード入力以外に特別な知識は必要ありません。「そのくらいのことなら自分にもできる」という人は少なくないと思います。
(4)障害者の情報アクセスの困難さ
ところで、さまざまな可能性をもつパソコンではありますが、障害をもつがゆえに情報アクセスの困難さがあります。アクセスとは「近づきやすさ」という意味です。それを補うために様々なハードウェアやソフトウェアが開発されています。
例えば、次のような困難さがあります。
1)出力関係
・文字など見えにくい(文字の大きさ、地の色など)
・マウスポインタが見えにくい
・寝た姿勢でモニタの画面が見えない
・警告音が聞こえない
2)入力関係
・隣のキーも押してしまう
・キーが離せないので続けて文字を入力してしまう
・同時に2つのキーが押せない
・マウスのダブルクリックが難しい
・マウスが動かしにくい、動かせない
・広範囲に手が動かせない
・マウスは使えるがキーボードが使えない
・動かせるところが少なくてマウスもキーボードも操作できない
3)その他
・スイッチが入れにくい(パソコン本体及び周辺機器)
・キーボードがすべる
(5)ユニバーサルデザイン
「ユニバーサルデザイン」ということばをきいたことがありますか? 「共用品」と呼ばれることもあります。
最近多くの駅にエレベータやエスカレータが設置されるようになってきました。エスカレータまでの階段にはスロープも整備されています。エスカレータは通常は昇り専用ですが、車椅子が利用するときには駅員さんが操作して降りにもできるというものです。車椅子のマークはついていますが、障害者専用というものではなく、多くの乗客が利用しています。スロープやエレベータ、エスカレータが設置されたことで体の不自由な人だけでなく、ベビーカーを使うお母さんや妊婦の方、高齢者などにもやさしい駅となりました。
これが「ユニバーサルデザイン」の一例です。障害者向けに特別なものを用意するということではなく、ユーザーの中に障害を持つ人も含めて考えるというシステムや製品、機器、建造物の設計思想のことです。
同じようなことがパソコンについてもいえるのではないでしょうか。パソコンをハンディのある人が使いやすいように工夫することは、初心者や小さい子ども、高齢者の方にも使いやすい環境を準備することになるのではないかと考えます。
パソコンにおいては、OS(基本ソフト)として「ユーザー補助」(WIN)や「ユニバーサルアクセス」(MAC)などが備わっています。
また、トラックボール、ジョイスティック、タブレットなどの入力装置もユニバーサルデザインと考えてもいいかもしれません。
(6)新しい人権 情報アクセス権
日本障害者協議会情報通信ネットワーク特別委員会委員長の薗部英夫氏は、「情報にアクセスできること、情報を発信し、コミュニケーションできることは現代の新しい人権である。その権利は、知的な障害を持つ人も含めて、すべての障害者に保障されなければならない。障害者にやさしい機器は誰もが使いやすいものである。そして、障害を持つ人によい社会は万人のためにもよい社会であるからである」といっています。
4 障害者への支援
(1)福祉制度や行政による支援
1)日常生活給付用具
障害の部位と程度によって日常生活給付用具として認められています。以前は自治体によっては「電動タイプライタ」あるいは「ワープロ(専用機)」の枠で認められていましたが、「パソコン」として認められるようになりました。詳しくは坂戸の行政担当者にご相談ください。
・ワードプロセッサ・パソコン
補助金の限度額が12万円くらい
・意思伝達装置
補助金の限度額が50万円くらい
(詳しくは、厚生労働省「重度障害児・者に対する日常生活用具の給付等について、「重度身体障害者に対する日常生活用具の給付及び貸与について」参照」
・県「障害者情報バリアフリー化支援事業」
http://www.pref.saitama.jp/A04/BL00/bariafuri/bariafuri.htm
2)リハビリセンターなどでの相談活動
各地のリハビリセンター、病院などで、理学療法士や作業療法士を中心に、障害者のパソコン利用についての相談をおこなっているところがあります。入力機器のことだけでなく、パソコンを使うときの姿勢の問題などについても相談できるという利点があります。
(2)メーカーやプロバイダによる支援
アップルディスアビリティセンターなどメーカーが障害者向けに相談窓口を開設しているところがあります。また、テクノツールではパソコン購入の無料相談を行っています。IBMでは
インターネットの接続サービスを提供する会社(プロバイダ)では、身障手帳を持っていれば接続料を半額にするなどの障害者割引をおこなっているところがあります。
(3)非営利団体、ボランティアなどによる支援
坂戸パソコンボランティアのようなパソコンボランティア団体が各地で生まれつつあります。責任あるサービスを提供するために、無償のボランティアではなく、有償サービスを提供しているところもあります。
(4)民間企業による有料サポート
(5)パソコンのリサイクル
パソコンの使用目的によっては最新の機械でなくても十分です。パソコンリサイクルというものもあります。
【関連Webサイト】
◎こころWeb http://www.kokoroweb.org
支援機器などの情報をまとめているこころリソースブックを電子化して公開しています。相談センターがあり相談にのってくれます。
◎伊藤英一さん(長野大学・元神奈川リハ)
http://www.sfc.keio.ac.jp/~e-ito/access/
こころリソースブックが刊行される前から、関連情報をパソコン通信などで発信していました。1994年に刊行した「障害者のパソコン・ワープロ通信入門」で私が分担した肢体障害者の入力装置の記事を書くときお世話になった方です。
◎畠山卓朗さん(星城大学・元神奈川リハ)
http://homepage2.nifty.com/htakuro/
いわずとしれたリハビリテーションエンジニアのパイオニア
◎テクノツールhttp://www.ttools.co.jp/
小型ひらがなキーボードなど
◎アップルディスアビリティセンター
Mac関係の入力装置など
http://www.apple.co.jp/solution/disability/
◎マイクロソフト・アクセシビリティホーム
http://www.microsoft.com/japan/enable/default.asp/
<
◎パシフィックサプライ
リハビリ機器などを扱う会社です。トーキングエイドなどの販売をしています。
◎財団法人テクノエイド協会
◎できマウス。 http://deki.psv.org/
【参考文献】
伊藤、梅垣、園部編:障害者と家族のためのインターネット入門(全障研出版部)
障害者問題研究29-4 特集ITと障害者
2部 障害を補うための入力支援機器、ソフトウェアなど
|
|
片マヒ・片手 切断など |
<・ siftキーなどと他のキーを同時に押せない →順番にキーを押すことで同時に押したのと同じ効果が得られるようにユーザー補助機能(固定キー)を設定して、順次入力を可能にします ・ 利き手が左手でマウスのボタン操作がしにくい →「設定」「コントロールパネル」「マウス」「ボタンの選択」で設定を変えます。 |
手指に不随意運動がある (キーボード) |
・ 意図したキーが押せない →キーガードの上に手をおいて不随意運動を抑える。肘や腕が空中に浮かないように台やマットなどで支える。 ・ 間違って隣のキーも押してしまったり、同じキーを複数回押してしまう →「設定」「コントロールパネル」「ユーザー補助」「キーボード」「フィルター機能」「設定」「速いキー入力は無視して、リピートの間隔を長くする」 ・ 同じキーを押し続けてしまう →「設定」「コントロールパネル」「ユーザー補助」「キーボード」「フィルター機能」「設定」「繰り返して入力されたキーは無視する」 |
手指にマヒ、不随意運動がある(キーボード) |
・ 指が開かない。間違って他のキーを押してしまう →スティック(棒)を握ってキーボードを押す ・ マウスは使えるがキーボードの操作が難しい →クリックパレットやソフトキーボードなどを使う ・ 音声は藤生ではない →音声入力を使う ・ <![endif]>一つのスイッチしか使えない →「キネックス」を使う |
手指に不随意運動、マヒがある |
<![if !supportLists]>・ <![endif]>マウスの操作が困難 →「設定」「コントロールパネル」「ユーザー補助」「マウス」「マウスキー機能を使う」 →らくらくマウス、マウスムーバー、できマウスなどを使う(スイッチについては障害の部位や程度に応じて工夫する) |
筋緊張が低い |
・ 大きな範囲での動きが出来ない →クリックパレットやソフトキーボードなどを使う →タブレットを使う →小型キーボードを使う |
1 ちょっとした工夫
(1)操作する姿勢を楽にする
操作を楽にするために姿勢は重要です。モニタ、キーボード、マウスなどのポインティングデバイスの位置などを考えて、楽な姿勢を探りましょう。背もたれのある椅子、頭部を支えるヘッドレストなどを必要とする人がいます。
モニタの画面が見づらいために姿勢を崩してしまう人もいます。画面を拡大したり、大きな文字を使ったりすることで画面を見やすくすることができます。
(2)電源を入れる
まず、パソコンの電源を入れなければなりません。マッキントッシュのようにキーボードにスイッチがついているものもありますが、パソコン本体の後ろについていることもあります。周辺機器の電源を一緒に入れることを考えるとスイッチ付き電源タップを利用すると便利です。全国障害者問題研究会の月刊誌「みんなのねがい」2000年8月号で伊藤英一さんがタップの紹介をしています。
<![if
!supportEmptyParas]>ハ<![endif]>
(3)掌・肘をついてキーボードを操作する
キーボードには厚みがあります。そのために、手を空中に浮かせたままでキーをうっている人はいないでしょうか。手の一部をどこかについて固定して、指先が動かせると楽になります。専用のパッドも売っていますが、雑誌などを使って手作りもでいます。後で説明するキーガードを使うことが適している場合もあるでしょう。
(4)滑り止めマットを使ってキーボードを固定する
2 モニタが見づらい
脳性マヒの人の中には斜視などを併せ持つ人がいます。また、首の不随意運動によってモニタの画面が見づらいということがあります。
次のような解決策が考えられます。
→フォントの変更(文字種、文字の大きさ)
→ソフトウェアの文字拡大、画面拡大の機能を使う
→画像解像度を変更して拡大する
→拡大鏡などを使って画面を拡大する
→見やすいように表示の色を変える
3 キーボードの操作に困難がある
<![if
!supportEmptyParas]>ハ<![endif]>
(1)脳性まひなどの障害で指先が震えて隣のキーも押してしまったり、同じキーを連続して押してしまったりする
→ユーザー補助機能(フィルタキー)で、一定の時間キーの入力を受け付けないように設定する
(2)脳性まひなどの障害でキーから指が離しにくく、連続して入力されてしまう
→ユーザー補助機能(フィルタキー)でリピートの間隔を長くするように設定する
(3)脳性まひなどの障害で指先が震えて一つのキーだけが押せない
→キーガードを使って、手をキーガードの上に乗せて指先でキーを押しやすくする
→スティックを使う
→マウス操作が比較的楽にできるのであれば、ソフトキーボードを使う
(4)切断・欠損や脳卒中などの片マヒなどによって二つのキーが同時に押せない(Sift+、Ctrl+、Alt+)
→ユーザー補助機能(固定キー)を設定して、順次入力を可能にする
[
スタート ]
メニューで: * [ プログラム ] をポイントします。 * [ アクセサリ ] をポイントします。 * [ ユーザー補助 ] をポイントします。 * [
ユーザー補助ウィザード ]
をクリックして選択します。 【キーだけで操作する】 Ctrl + Esc キーを押すか
Windows ロゴキーを押すと、[ スタート ]
メニューを表示します: * P キーを押して
[ プログラム ] に移動します。 * 上方向 キーまたは 下方向
キーを押して [ アクセサリ ]
に移動します。 Enter キーを押します。 * [ ユーザー補助 ]
に移動して Enter キーを押します。 * [
ユーザー補助ウィザード ]
に移動して Enter キーを押します。 |
(5)筋ジストロフィーや筋萎縮性側索硬化症(ALS)などによって広範囲に腕を動かすことができない、キーを押す圧がかけられない
→画面上に表示されたキーボードをマウスなどでクリックするソフトキーボードを使う(MS IMEやATOKについている)
→小型キーボードなど特殊なキーボードを使用する
(6)キー操作が困難である
→単語登録などの機能を使って、よく使う単語を短い単語で登録し、キー操作の回数を減らす(例えば電子メールでの決まったあいさつの言葉、メールアドレスなど)
→キーを打つ回数を減らすためには、「ローマ字入力」ではなく、「かな入力」にすることも考えられる
→ソフトキーボードを使う
4 マウスの操作に困難がある場合
(1)キーボードの操作は比較的楽だが、マウス操作が難しい
→キーショートカットを使う
マウスを操作して、メニューから「操作命令」を選ぶかわりに、キー操作で代替させる方法 【ファイルメニュー】 ・新規作成 ・・・ctrl+N ・開く ・・・ctrl+O ・保存 上書き保存 ・・・ctrl+S 名前を付けて保存・・ ・印刷 ・・・ctrl+P 【編集メニュー】 ・カット ・・・ctrl+X ・コピー ・・・ctrl+C ・ペースト(貼り付け)・・・ctrl+V ・取り消し ・・・ctrl+Z ・すべてを選択 ・・・ctrl+A |
主なキーショートカットについては【資料1】を参照されたい。
→ユーザー補助機能(マウスキー)を設定して、テンキーを使って、マウスの操作を行う
→代替装置を使う
らくらくマウス:比較的値段が安い。ユーザーに合わせたオーダーが可能
マウスムーバー:ユーザーに合わせたスイッチがつなぎやすい
(2)脳性まひなどによってマウスは操作できるが、通常の状態では使いにくい
→コントロールパネルのマウスで、マウスポインタの速度を遅くする
ダブルクリックの速度を調整する
(3)筋ジストロフィーや筋萎縮性側索硬化症(ALS)などによって広範囲に腕を動かす
ことができない
→トラックボールやタブレットなどを使う
5 重度の肢体障害がある場合
(1)随意運動ができる部位と範囲が少ない
→スキャンなどによって、1スイッチでマウスやキーボードの代替を行う
→各種意思伝達装置(環境制御装置も兼ねるものもある)
6 特別な入力装置や入力支援ソフトウェアの利用
3部 入力支援機器、ソフトウェア設定の実際
1 ウィンドウズのユーザー補助機能を使う
不随意運動で隣のキーも押してしまう場合や、キーを押さえたあとすぐに離すことができない場合などには、OSの機能でキーの自由度を低くして対応することができます。ウィンドウズの場合は、「固定キー」「フィルターキー」「切り替えキー」の機能があります。
(1)固定キー
Shift、Ctrl、Altなどのキーを「固定」します。例えば、Ctrl+Pという操作が必要な場合、Ctrlキーを押しながらPのキーを押すかわりに、Ctrlキーを押してからPのキーを押す方法が使えるようになります。
(2)フィルターキー
隣のキーを押してしまったり、キーを押し続けてキーリピートしてしまったりするのをリピート間隔を長くして防ぎます。
(3)切り替えキー
CapsLock、NumLock、ScroolLockのキーを押した時に、音を出して確認できます。オンになった時は「ピッ」、オフした時は「ポッ」という音がします。
(4)マウスキー
テンキーをマウスのかわりに使うことができます。
2 マッキントッシュのユニバーサルアクセスを使う
MacOS]ではユニバーサルアクセスというシステム環境設定で、キーボードやマウスを使いやすくできます。なお、MacOS9以前では、コントロールパネルから「イージーアクセス」を選んで設定します。
(1)複合キー
順番に押した修飾キーをキーボードショートカットとして扱います。たとえばcontrol+A と押すかわりに、controlを押してから A を押すことで同じように入力できるようになります。
(2)キーのリピート
「キーボード環境設定」で設定します。キーの繰り返し速度を設定します。
(3)リピートをはじめるまでの遅れ(スローキー)
「キーボード環境設定」で設定します。キーの反応速度を設定します。
(4)マウスキー
テンキーをマウス代わりに使います。
(5)マウスポインタの動きの制御
マウスの移動速度(初期の遅れ、最大の速さ)を設定します。
(6)「マウス環境設定」
軌跡の速さ、ダブルクリックの間隔を設定します。
|
|
|
|
3 特殊なキーボードやマウスを使う
「特殊な」といっても、場合によっては一般に販売されている製品でも、その人に合ったものがあれば活用することができます。
例えば、手を動かせる範囲が狭いため大きなキーボードが使いにくい場合、市販の小さめのキーボードを使うことで使いやすくできる場合があります。また、マウスについても市販のトラックボールやタブレットなどが使える場合があるでしょう。
(1)らくらくマウス
(2)ソフトキーボード
画面上に仮想のキーボードが表示され、それをクリックすることで文字を入力します。筋が少しだけしか動かせない人でもとタックボールやタブレット、スイッチとインターフェースなどを利用し、時間はかかるが文字を入力することができる。
(3)Pete
「Pete」は、単語予測機能を備えた、身体障害者向けの日本語入力用ソフトウェアです。 「Pete」は、画面に表示したソフトウェア・キーボードを使って、マウス操作またはオートスキャン方式の1スイッチ操作により、ウィンドウズの各種アプリケーションへ日本語の入力を行います。この時、単語の読みの一部を入力すると、過去の単語出現状況などをもとに、入力しようとしている単語を「Pete」が予測して、複数の候補を例示してくれます。
これらの候補の中から入力したい単語を選んでいくことにより、通常のIMEを使った文節変換入力に比べ、少ない操作回数で日本語の文章を入力することができます。
(4)できマウス。とその仲間
(5)キネックス
走査入力でマウスもキーボード入力もおこなうソフトとインターフェースを合わせた製品。
(6)その他
【資料1】
※特に指定の無いものはWindows共通です。
範囲を選択 |
Shift + → ↓ ← ↑ |
記憶させる(コピー) |
Ctrl + C |
切り取る(カット) |
Ctrl + X |
貼り付ける(ペースト) |
Ctrl + V |
全て選択 |
Ctrl + A |
元に戻す |
Ctrl + Z |
元に戻したのをやり直す(ワードで) |
Ctrl + Y ( または F4
) |
上書き保存する |
Ctrl + S |
行頭にジャンプ |
Home |
行末にジャンプ |
End
|
全体の最初にジャンプ |
Ctrl + Home |
全体の最後にジャンプ |
Ctrl + End |
表や設定画面での移動 |
Tab
|
表や設定画面での逆移動 |
Shift + Tab |
ヘルプ |
F1
|
ファイル名の変更(ファイル操作で) |
F2
|
最新の情報に更新(ファイル操作で) |
F5
|
メニューバーへ移動 |
Alt
|
ウィンドウを切り替える |
Alt
+
Tab
|
画面を最大化 |
Alt
+
スペース
→
X
|
画面を元のサイズに戻す |
Alt
+
スペース
→
R
|
画面を最小化 |
Alt
+
スペース
→
N
|
画面を閉じる |
Alt
+
スペース
→
C
|
いま使っているプログラムを終了 |
Alt
+
F4
|
パソコンが反応しなくなったら |
Ctrl と Alt
を押しながら Delete |
【資料2】全国障害者問題研究会「みんなのねがいWeb」より引用
—1980年、2001年の国際障害分類から
障害の原因、症状、診断、治療など、医学的に障害についての認識と技術を深化発展させる基礎的・臨床的な研究や実践は、日々積み重ねられています。その成果は、医療だけでなく、子育て、保育・療育、学校教育、福祉、その他の分野での、障害のある人の生命と生活を支える取り組みに欠かすことはできません。
医学との関わりを念頭におきながら、基礎的な障害の見方についてふれたいと思います。
●1980年の国際障害分類
障害の見方が、個人に帰属する特性であるとするものから変化してきたのは、1970年代以降です。
この新しい動きに大きな影響を与えたのは、WHO(世界保健機関)が1980年の「国際障害分類(試案)」で提起した障害の理論モデルです。これは障害を、インペアメント(機能・形態障害)、ディスアビリティ(能力障害)、ハンディキャップ(社会的不利)の、3つのレベルに分けて考えようとするものです。
このモデルは「障害は、生物学的レベル、個体(個人)的レベル、社会的レベルという階層からなる」という障害観を提示し、社会的不利を含めることで社会のあり方との関わりで把握する必要性を明確にした点に特徴があります。
しかしその後、実際に活用されるなかで、社会的不利の分類項目が少ない、環境との関係で障害をとらえるべきだ、機能障害に医学の進歩が反映されていない、障害者の内面の重要性が位置づいていない、などの批判が生まれました。そして2001年、新しい国際分類が発表されました。
●2001年の新しい障害分類
新しい分類では、機能障害、能力障害、社会的不利に代わる言葉として、心身機能・身体構造、活動、参加の三つが採用されました。そして、それぞれにおいて問題を抱えた側面を「機能障害」「活動の制限」「参加の制約」として、その程度を示します。
つまり「〜ができない」「社会において不利をこうむる」といったマイナスイメージで能力障害や社会的不利を規定することをやめて、健康という目安で整理し、障害をもつ人の運動機能や精神活動、コミュニケーションや動作などにどんな制限があるのかに注目するようになったのです。
この背景には、世界的な障害者の人権保障運動の成果が反映していることはまちがいありません。ここで注意しておく必要があるのは、新モデルでも「機能障害」は障害の基礎レベルで位置づけられていることです。障害を環境などとの関係において理解することは大切ですが、そのあまりに医学的な側面などが軽視されることがあってはいけません。
二次障害
●手足のしびれ、頸の痛み…
二次障害とは、成人障害者、とくに脳性マヒの人に見られる既存の障害(一次障害)の増悪や、あらたに出現した障害のことで、しばしば動作能力の低下をともないます。たとえば、手足のしびれ、頸の痛み、よくこける、ものを落とす、排尿の変化、肩のこり、腰痛、関節痛などの身体症状のほか、イライラする、ものを忘れるなど精神疲労の訴えもあり、症状は幅広くさまざまです。
二次障害の原因となる二次的疾患にはさまざまありますが、頸や肩、腕の痛みの場合には、頚椎症、頸肩腕障害などの疾患が疑われます。そのほか、脊柱側わん症と胸郭変形、変形性股関節症、関節拘縮、ポストポリオ症候群などもよくみられる疾患です。30歳前後から始まる人が多いのですが、早い人では20歳代から症状が現れる場合もあります。
さまざまな症状や動作能力の低下は、軽度の障害のある人よりも中度以上の障害をもつ人に、また年齢が高くなるほど多くみられる傾向があります。しかし、就労している人の場合には、その職種や労働条件のちがいによって症状のでかたが異なります。
●生活全体に関わる総合的な対策を
二次障害の対策は、疾患や機能障害に対する治療的アプローチだけではなく、二次障害を生み出さない、悪化させない生活と労働の環境と条件を整備することが大切です。つまり、その人の生活全体に関わる総合的な対策が必要であることがポイントになります。
以下、働いている障害のある人を念頭に、のぞましい生活や労働のあり方についてふれます。
まず仕事(職場)については「作業の内容、作業時間は適切か」「長時間の同一姿勢の保持を防ぐため休憩時間に臥位で疲労をとるなどしているか」「机やイスの高さ、障害に応じた自助具やコンピュータの入力装置など環境が整備されているか」など、その人の障害の種類や程度に応じたきめ細かい対応が必要です。
生活面では、睡眠や食事をしっかりとって、規則正しい生活を送ることとともに、運動不足の解消と体力づくりが必要です。始業前のストレッチや昼休みの運動など有効です。
もちろん医療機関との連携も欠かせません。たとえば、歩きにくくなったなどの症状が、いつから始まったのか、なにかきっかけがあったのかなど整理しておくことは、二次障害の早期発見と治療方針を決めるために大切です。
「障害だからしかたがない」とあきらめずに、体の症状や生活を見つめなおすことから始めましょう。
●リハビリは訓練だけではない
リハビリテーション(以下、リハビリ)というと、治療を終えた人が歯をくいしばって歩く訓練をしている姿を思い浮かべる人が多いかもしれません。一般的にリハビリというと「専門機関で訓練士を中心に取り組む機能回復訓練」というせまいとらえ方が、まだ広く残っているのではないでしょうか。
リハビリでは、㈰疾病の治療と並行して早期から始めること、㈪病院でも在宅でも行なうこと、㈫本人、家族を中心にさまざまな関係者の協力で行なうこと、㈬新しい生活や人生を創造することなどが大切です。治るまで社会から孤立して訓練することではなく、外に目を向けながら、自分の生活を取り戻し、創造していくことがポイントです。
●「QOL」も大切な課題
高齢や障害のため、「寝かせきり」にしたり、自宅に閉じこもりがちになることによって、筋力がおち関節が固まる、床ずれや肺炎になりやすくなるなど廃用症候群になることがあります。これは最も警戒しなければいけない機能障害で、家に閉じこもらないようにすることがリハビリになります。
リハビリでは、ADL(日常基本動作)が自立すること、身のまわりのことが自分でできるようになることは大きな目標になります。なかでも、食べること、排泄すること、座ること、立つことの訓練は重要です。しかし、ADLの自立ばかり求めると訓練を重視する傾向が強まって、本来の目的とずれてしまう場合があります。できないことはあるけれども、まわりの支援を受けながら、社会的な役割を果たしながら、自分の生活を創っていく。リハビリではQOL(生活の質)も目標とされなければいけません。
●地域リハビリの充実をめざして
専門病院の訓練によって、できなかったことができるようになった。この段階でのリハビリは仮の姿にすぎません。生活の場で実行されるようになって初めてリハビリの到達点と考えられます。
この到達点を広げていくためには、病院での取り組みが中心である従来のやり方ではなく、地域ぐるみの新しいコミュニティの形成が求められています。高齢者や障害のある人たちが、安全にいきいきと生活できるように、医療や保健、福祉をはじめ、その人の生活に関わるあらゆる人びとが協力する取り組み「地域リハビリ」が求められています。