提言1 20世紀に残した課題

1. 障害種別の課題に応えた学校・専攻科設置をすすめます。

(1) 知的障害養護学校の高等部の分離独立をすすめ、高等養護学校(高等部単独校)に専攻科を設置します。

 埼玉の知的障害養護学校は、保護者と教職員の学校設置運動により設置され、開校と同時に、あるいは1年後に高等部が設置されてきました。開校と同時に希望する全ての生徒に後期中等教育を保障してきたことは、全国的に誇れる運動による成果です。

 同一校に小学部から高等部まで設置されていることによるメリットもありますが、デメリットがあります。学習集団が人間関係が固定化しやすいこと、同じ特別教室を小学部から高等部まで使用せざるを得ない等の施設・設備の問題などです。さらに高等部の生徒が多い逆ピラミッド型の大規模校となっていて、施設不足が深刻な問題になっています。これらを解決するには、教育実践上の節目である高等部の分離独立が求められます。

 また、知的障害の子ども達にとって、高等部3年間は短く、実習だ、進路だと卒業に向けて追い立てられていくのが実態です。青年期の発達課題に合った教育を3年間で保障するのには無理があります。健常者が大学、短大、専門学校に進んで教育の機会を得ていることを考えると、発達に時間のかかる知的障害の青年には教育年限が延長されてしかるべきです。今日、保護者や教職員から、養護学校高等部卒業後の専攻科を設置してほしい、という要望が強く出されています。欧米諸国において障害児者の教育年限は、イギリスは19歳、アメリカは21歳など、延長される制度が進んでいます。我が国においても、盲学校、ろう学校には専攻科が設置され、高等部卒業後の専門教育を受ける場として保障されています。高等部とそれに続く専攻科は、社会生活への移行をはかる役割(トランジッション)として重要な教育機関です。

 専攻科の設置は、学校教育法第76条で規定されており、養護学校においても専攻科設置は法令上可能です。

@当面、現在の知的障害養護学校の高等部を分離独立させます。

A分離独立した高等養護学校のすべてに専攻科を設置します。

Bまた、肢体不自由養護学校については、ニーズに応じて設置を進めます。 

(2)盲学校のサテライト(分校等)づくりをすすめます

 埼玉県立盲学校は、県内唯一の公立の盲学校です。しかし、全県のすべての視覚障害児の教育権を保障できてはいないというのが実態です。現在寄宿舎に入舎し、盲学校で学ぶ多数の子どもたちがいますが、年齢や発達の状況によっては必ずしも寄宿舎での生活が子どもの最善の利益とはいえない子どももいます。

 現在、盲学校では地域での教育相談会の開催等を通してその実態把握につとめています。2000年夏に越谷で教育相談会を開催したところ、多数の参加者があり、改めて盲学校に対するニーズの大きさが明確になりました。全県の視覚障害児の教育を保障するため、障害児の状況やニーズに応じて、分校、分教室、相談・支援室などを開設して行きます。

(3)独立高等ろう学校を設置します

高等ろう学校設置を求めた請願書が採択された1972年以降、様々な曲折を経ながら、保護者、教職員、聴障者団体、手話関係者が団結して運動をすすめてきました。その力は県当局を動かし、財政難のなか、専攻科設置が不十分ながら2000年に実現しました。

しかし、大宮校に併設された専攻科は一学科2コース(定員一学年8名)であり、当初からの懸念(併設では新しい出会いを求めたいという生徒のニーズに合わない、一学科では選択肢が狭い)が現実になりつつあります。生徒、親のニーズに応え、高等部教育を青年期にふさわしい内容にしてゆくために、早期に独立した高等部と専攻科の高等ろう学校を設置させます。

2.盲・ろう学校の幼稚部の定数法・早期教育相談を制度化します

 埼玉の盲・ろう教育において、早期教育相談に県単独加配の職員が配置されてから20年が経ちます。この間、障害の早期発見が進み、教育のニーズがさらに高まっています。しかし、「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」等に幼稚部の教職員数の規定がないことを理由として立ち後れています。

 他学部に20年以上遅れて幼稚部の重複学級認可がやっと実現するなど、教員定数の改善など教育条件の整備はその道のりの途上にあります。今後、全国の仲間とともに、国に働きかけ幼稚部や早期教育に関する定数法を制度化させるとともに、現在必要としている乳幼児や父母に早期教育相談が保障されるよう、担当教員数の増加や施設設備を充実させます。

3.全病虚弱児に豊かな教育保障をします

(1)慢性疾患であるかどうかに関わらず、全ての病虚弱児に豊かな教育を保障します

 病弱教育の対象は@慢性の胸部疾患、心臓疾患、腎臓疾患等の状態が6ヶ月以上の医療又は生活規制を必要とする程度のものA身体虚弱の状態が6ヶ月以上の生活規制を必要とする程度のもの(学校教育法施行令第22条の3)となっていました。現在では、小児医療の進展と疾病の変化で長期入院児は減少し、また入退院を繰り返す子どもや病弱養護学校への通学生も増えています。そのような中、文部科学省が示した2003年から適用される新しい基準では、「@疾患の状態(慢性の呼吸器系疾患等)が、継続して医療又は生活規制を必要とする程度のもの A身体虚弱の状態が、継続して生活規制を必要とする程度のもの」と実態をふまえ入院期間の定めがなくなりました。ただし、かっこ書きに『慢性の呼吸器系疾患等』とあり、慢性であるかどうかにこだわるような条文解釈につながるおそれもあります。

 近年、院内学級の意義が認識され、数が増えていますが、すべての入院している子どもたちの教育保障という点からは十分とはいえません。また、退院はしたものの何らかの理由で地域の学校に復帰できない子どもや、短期の入退院を繰り返す子ども、自宅療養をしている子どもなど、通常学級に在籍している病弱の子どもたちが多いのですが、制度的整備がされていません。また、就学前教育や後期中等教育の保障も不十分です。

@慢性疾患であるかどうかに関わらず、全ての病虚弱児に豊かな教育を保障します。

A岩槻養護学校に幼稚部を設置します。

B地域の小中学校に在籍している病虚弱児の在宅療養中の教育を保障します。

C岩槻養護学校、寄居養護学校にも高等部を設置します。また、退院後、単位互換など元の高校に復学できるシステムをつくります

D管理規則を改定し、各病弱養護学校の入学資格に実態に応じた弾力性を持たせます。

(2)院内学級・病弱養護学校が設置されていない病院に入院中の子ども達への教育保障を進めます

県教委は2001年9月14日の校長会で、突然「病気入院中の児童生徒の訪問教育を10月1日から訪問教育を肢体自由養護学校で実施すると報告しました。父母・関係教職員などはかねてから病気療養児(入院児)への教育権保障を要求してきました。実際の実施校は1校にとどまりましたが、半年で小中学部合わせて5ケースがあり、あらためてニーズの高さが明らかになりました。

 実施する中で次のような問題点が指摘されています。

・県内全域にわたる入院中で教育保障が行われていない子どもたちの詳細な実態調査が実施されていないこと。
・実施校に今まで病虚弱児教育の教育実践の蓄積がある病弱養護学校を加えなかったこと
・校長を含め現場の意見も十分に把握しないでの拙速な実施であったこと
・一人の教員が「重度重複障害の教育課程」を学ぶ在宅訪問の生徒と病院訪問の「準ずる教育課程」を学ぶ生徒を担任しなければならないこと
・訪問回数が週3回のため、医療的には制限がなくても授業時間が制限されること
・中学部では教科ごとの担当者が必要だが、校内の態勢がとりにくいこと
・そのための加配など行政による支援がないこと
・病院側の受け入れ態勢などがたちおくれていること

  「すべての」病気の子どもに豊かな教育をという点から、制度的な遅れを改善し、新たなニーズに対応する抜本的な整備を進める必要があります。当面、以下の条件を整えます。

@年間を通して常時入院児がいる病院には、病弱養護学校の分教室や院内学級を設置させます。

Aそれらのない病院に入院している子どもたちへは当面訪問教育で対応し、どの病院であっても教育が保障されるようにします。

B現行の訪問教育を改善します。

  ・実施校に病弱養護学校を加えます。
  ・重度重複児とは別に学級を認可し、児童生徒が必要とする訪問回数を保障します。
  ・県あるいは地域ブロックでの教職員のプール制などによって教科ごとの教員派遣をしやすくします。
  ・病院側の受け入れが進むように啓発活動を進めます。

4.医療的ケアを必要とする子どもたちが安心して学校に通えるようにします

 埼玉県においては、91年度埼玉県教育委員会が埼玉県特殊教育振興協議会(特振協)に対し「学校生活において医療行為を必要とする児童生徒の教育の在り方について」を諮問しました。これを受けて特振協は92年3月に一定積極的な答申を出しました。しかし、この答申は県教委によってほとんど具体化されませんでした。

障教部では、障教部署名の重点要求として取り上げるなど要求運動を続けてきました。

埼特P連(肢体不自由養護学校専門部会)は2000年度に「医療的ケアと学校教育を考えるシンポジウム」、2001年度には会員の学習を目的としたセミナーを開催するなど、関心が高くなって来ました。このような中、埼玉県特殊教育振興協議会の答申(1992.3)を放置してきた県教育局も、こうした運動の高まりや国の文部行政の動向をみて、肢体不自由校への非常勤看護師の配置、医師による巡回、教職員への研修を内容とする「メディカルサポート事業」(医師の巡回指導、パートの看護師配置)を立ち上げました。

 しかし、これは、父母や教職員の要求から大きくかけ離れ、近隣の自治体の施策と比べても不十分な内容のものです。

 メディカルサポート事業を改善して子どもたちの学校生活が、子どもたちにとってはもちろん、保護者にとっても、教員にとっても安心できるように改善を進めます。

 当面次のような点を改善します。

@校内の医療的ケア検討委員会への看護師の参加ができるようにすること

A看護師の医療機関での臨床研修の保障。

B看護師の継続雇用、常勤化。

C県内の医療機関における教員の臨床研修の実施。

D保健室の整備。

必要に応じて吸引機、ネブライザー、パルスオキシメーターなど機器をそろえます。

E泊を伴う校外行事(校外宿泊、修学旅行など)への医師・看護師の同行。

5.訪問教育をいっそう充実します

 訪問教育は全県で50人内外の児童生徒を対象として実施されています。各校にせいぜい2〜3人程度の在籍しかなく、よりよい教育を行うために、担当者は日々、熱意と努力を傾けているところですが、当面は以下の諸問題の解決に全力を傾ける必要があります。

(1)教育を受ける権利の実質的保障

 訪問教育は「子どものいるところで授業をする」という出発点ゆえに、通学生と比較すると教育条件がどうしても劣悪となります。たとえば、県内では訪問回数は週3回が標準的となっていますが、これとても何ら根拠があっての週3回ではありません。訪問教育生は1学級が3名の重複学級に位置づけられますが、そのために一人の教師が3名の子どもを担当することになってしまい、そのために指導回数の上限が3回になっている、というのが実情です。最初から通学生とかけはなれた時間数しか確保できないような制度は、誤っているのです。訪問教育のあり方についての抜本的な充実が必要です。

(2)後期中等教育のさらなる充実

 親の会の熱烈な運動により、高等部における訪問教育は2000年度より制度化されました。

 課題としては、制度化以前に卒業したいわゆる「既卒者」の存在があげられます。特に在宅訪問を受けていた子どもとその家族は学校との結びつきが弱かった場合が多かったものと想像され、担当者の入れ替わりもあって実態の把握が年々、困難になっています。

 県に対して実態把握を行わせた上で、希望者については原則的に受け入れさせます。

6.寄宿舎教育をいっそう充実します

 現在埼玉には5校の寄宿舎があります。寄宿舎はもともと通学困難な子どもたちの就学を保障するために設置されましたが、現在は子どもたちの成長・発達を促す教育的な場として位置付けられています。また、今日福祉的な役割も担ってきています。今後、さらに寄宿舎の教育的意義を明らかにしながら、子どもの発達や障害、生活実態を見据えた豊かな寄宿舎づくりが求められます。当面、以下の課題にとりくむことが大切です。

1.寄宿舎での生活教育の大切さを父母・教職員・県民に広げます。

寄宿舎は子どもたちが障害をもつ仲間との寝泊りを通して「生きる力」や生活を切りひらく力」を身につける場です。それは障害をもつ子どもたちとその家族の生活の現実を視野に入れながら、生活の主体者を育てていく教育的な営みです。しかし、まだ寄宿舎の生活教育の重要性が理解されていません。県教育委員会・学校・教職員がそれぞれの立場で、保護者・教職員・県民に広げる活動を進めます。

2.5校の寄宿舎の教育条件改善を進めさせます。

(1) 定数改善のとりくみ 

・標準法(最低保障12名)にもとづいた定数配置をさせ、未充足にある熊谷養護学校、越谷養護学校に早急に配置させます。

・寄宿舎指導員の採用試験の実施と、定数内臨任者をなくし本採用で配置させます。

・寄宿舎にも重複定数が認められるように国に働きかけます。

・看護師やスクールカウンセラーを配置するようにさせます。

(2) 施設・設備の改善・充実

「21世紀の特殊教育の在り方について」の最終報告にある寄宿舎の条件整備を根拠に、ノーマライゼーションや保護の視点と障害の実態に見合った施設・設備に改善・充実させます。

3.寄宿舎指導員の身分を確立し、くらしを守り、労働条件の改善をすすめます。

名称については、国段階でも「寄宿舎指導員」へと変更されました。今後「生活教育」に従事する「寄宿舎教諭」を改正させます。また、必要な専門的知識や技術についての研修を保障させます。

賃金・労働条件については、労働実態を把握し、改善させます。

 

 

  

 戻る

ページTOPへ

次へ