「はち はち ごめんだ」

−ゆさぶりあそび、くすぐりあそび、手あそび

                      みんなのねがい、281、56-58(1992)


 全国障害者問題研究会の発行する月刊誌「みんなのねがい」に掲載された原稿です。


今回は、ゆさぶりあそびやくすぐりあそび、手あそびなどの人との交流あそびについて考えてみたいと思

います。

私たちは民族が産みだし、育ててきた伝承あそびを積極的に教育の内容として取り入れています。「子ど

もにどういう力をつけさせたいか」を基準に歌やあそびが選ばれます。ここではそうした教育的ねらいで

選択したいくつかの教材を紹介します。

 

 1 期待感を育てる

乳児期前半の発達段階では、ゆさぶりやくすぐりの刺激そのものが喜びの源泉です。ゆさぶりあそびの面

白さは、平衡感覚の変化やそれと結びついた身体の筋肉感覚の変化によって子どもの興奮がひきおこされ

るところにあるといわれています。また、くすぐりあそびは姿勢の変換こそありませんが、ゆさぶりあそ

びと共通した感覚に由来するとされています。

この段階の子どもたちは一人ひとり刺激の受けとめ方に違いがあります。また、急激な姿勢の変化は、恐

さともなりうるものです。そこで、子どもたちの笑顔を手がかりにして、ゆらし方や子どもの姿勢など一

人ひとりに合ったやり方を探します。

 そして、子どもたちは快感をもとにして、変化をもたらしてくれる大人を認め、親しい大人との間で笑

い合うことができるようになって行きます。

 六カ月前後の発達段階の子どもたちもゆさぶり・くすぐりあそびが大好きです。しかし、この段階では、

ゆさぶりやくすぐりの刺激そのものよりも大人と共感し合う喜びが大きな比重を占めるようになります。

 こうして、大人と笑いあえるようになった子どもたちに、私たちが次にねらうのは「期待感」です。同

じあそびを繰り返す中で、ゆさぶりやくすぐりの前にかまえたり、笑ったりすることです。

例えばハンモックでのわらべ歌に合わせてゆさぶりでは、ただゆさぶり続けるのではなく、区切りをはっ

きりさせるようにします。ゆさぶり終わった後はもちろん、ゆさぶる前に「さあ、ゆさぶるよ」と、しっ

かりと視線をあわせ、語りかけたりすることが大切だと考えています。

 

2 はち、はち、ごめんだ

 くすぐりあそびでは、くすぐるまでの『間』が大切になります。

 「はち はち ごめんだ」というあそびを紹介します。

 

 ♪はち はち ごめんだ

  おら まら ぼやら♪

  ぶうーん  チクン!

 

                                                                               これは、子どもをだっこして、あるいは向かい合って行うくすぐりあそびです。

 教師の人差し指の先が「はち」になります。「はち はち」から「ぼやら」までは歌に合わせて子ども

たちの顔の前で指先を左右にゆっくりと動かします。そして、「ぶうーん」のところで、「はち」が円を

描くように飛んで、子どもの期待をかきたてます。このとき子どもが指先を追視してくれたり、にっこり

とほほ笑んでくれたりするとやっている方も嬉しくなります。そして、「チクン!」とほっぺなどを優し

く刺して、その後すぐに「いて、て、て、て」といいながら刺された所を撫でてあげるのです。

 

 3 どのたけのこが のびたかな

 もう少し、見通しが持てるようになった子どもたちにはこんなあそびはどうでしょう。

 

 ♪どのたけのこが のびたかな

  あー、あ! このたけのこだ♪

これは集団でやるくすぐりあそびです。子どもたちを横にして、教師全員が一人の子どもをくすぐりま

す。 教師たちは事前にどの子をくすぐるのかを決めておきます。「どのたけのこが のびたかな」で

は教師たちは歌に合わせて手をたたきます。「あー(ここは長めに)」では、教師たちが次々に子ども

たちを指さして行きます。「あー」と、指さされた子どもたちの中からは待ちきれずに笑い声がこぼれ

ることもあります。 そして、「あ!」で目当ての子どもをみんなでいっせいに指さして、「このたけ

のこだ」でくすぐります。たくさんの先生が一人の子どもをくすぐるのでとても迫力があります。

 

 4 あらって、あらって

 発達段階が十カ月くらいになると簡単な動作の模倣ができるようになります。そうするといろいろな手

あそびが、一部分ではありますが、自分でできるようになります。

 さて、それ以前の段階、模倣の力を育てる時期に私たちが大切だと考えていることの一つは、大人だけ

を見るのでなく、大人の動作や持っているものにも注目できることです。 それから、大人の出した手に

子どもが手を添えてくることや直接手をつないで動かしてあげる中で子どもから手を動かすようになるこ

となど、大人からの働きかけに応えられるようになることです。

 ここでは後者のあそびの一例として「あらって、あらって」を紹介します。

 

 ♪あらって あらって

(3回繰り返し)

ひとまわし

  すすいで すすいで

(3回繰り返し)

  ひとまわし

  しぼって しぼって

(3回繰り返し)  

  ひとまわし

  ほして ほして

(3回繰り返し)

    ひとまわし

    すっかりきれいになりました♪

教師は子どもと向かい合って両手を持ちます。「あらって、あらって」で、歌に合わせて交互に手を前後

に動かします。「ひとまわし」では両手を一緒にぐるっと回します。次に、「すすいで、すすいで」で、

歌に合わせて交互に手を上下します。「しぼって、しぼって」では、歌に合わせて両手を交差させます。

「ほして、ほして」では、歌に合わせて両手を上下させます。最後に、「すっかりきれいになりました」

で、教師が子どもの顔や体に優しく触れて語りかけます。

なお、子どもの上肢にまひがある場合には動かし方を工夫します。

このあそびを繰り返し行う中で、ゆきさんは、教師が手を回す前に自分から手を動かしてくるようになり

ました。

(和光養護学校 桜井 宏明)


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