「みんなとコミュニケーションできる」

−パソコン通信でひろがる障害者の社会参加−

                      民主青年新聞、1997.6.30

               (日本民主青年同盟中央機関誌)

 発行所 日本民主青年同盟中央委員会


              みんなのねがいネット世話人  櫻井 宏明

 

  大震災で「ねがいネット」大活躍

 1995年1月23日、大地震が神戸をおそった日からちょうど1週間後、全国障害者

問題研究会(略称:全障研)の運営するパソコン通信ネットワーク「みんなのねがいネッ

ト」に「紙おむつが不足している。特に大きいサイズのものが欲しい」という神戸の肢体

不自由養護学校の先生からの記事が転載されました。

 肢体不自由の養護学校には6歳から18歳の子どもたちが学んでいますが、日常的に紙

おむつを使用している児童生徒が少なくありません。家庭訪問などを通じて、震災で紙お

むつが手に入り難くなっていることを知った神戸の先生は全国に「HELP」を発信しました。

そして、その記事を見た人達が、より多くの人に知らせようと、他の通信ネットワークに

転載したのでした。

 「ねがいネット」でこの記事を読んだ兵庫県の養護学校の先生からはワゴン車にのせき

らないくらいのおむつが送られました。他から送られたものをあわせると、たった1日で

十分な量のおむつが集まったそうです。まるで、バケツリレーのように、情報がパソコン

通信ネット間をネットワークされ、そして具体的な力となって、役に立ったのでした。

 「インターネット」のシステムでは、パソコンネットワーク間の壁を取り払い、ネット

ワーク同士を結びつけるので、この「情報のバケツリレー」が自動的にできるようになっ

ています。

 インターネットが日本で脚光を浴び、その後、急激に普及していった転換となったのは

、まさにこの阪神大震災ではなかったでしょうか。電話回線では緊急の通報が優先される

ため長距離通話が制限され、安否確認ができなかった時にも、幹線部分に専用線と通信量

の殺到にも比較的強い通信方法を使うインターネットやパソコン通信がその威力を発揮し

ました。

 また、電話やファックスが、1対1あるいは1対多のコミュニケーションであるのに対

し、インターネットやパソコン通信では、それらに加えて、参加者全員で情報を共有でき

る多対多のコミュニケーションが可能という特徴があります。テレビ放送並に伝達が早く

それでいて新聞のように『文字』という確実な情報手段であり、そして、広がりも無限、

参加者の誰もが情報の発信者にもなれる双方向のメディアであったからこそ、障害者の、

しかも刻々と変わるニーズに対応することができたのではないでしょうか。

 

  障害者も情報を発信できる

 障害者は能力障害(ディスアビリティ)をもつことによって様々な社会的な不利(ハン

ディキャップ)を受けることが少なくありません。いろいろな情報から遠ざけられること

もそのひとつです。例えば目の見えない人は、朗読してもらうか点字に翻訳してもらわな

ければ、文字を読むことができません。しかし、情報が電子化されていれば音声出力装置

や点字ディスプレイ(あるいは点字プリンタ)を使って出力することで、いつでも自分で

「読む」ことが可能になります。

 阪神大震災の時、いろいろな障害者団体の発行したニュースを一人でも多くの障害者へ、

できるだけ早く届けるために、FAXで受け取った記事を入力し、電子メールで返送する

というボランティアで活躍した人は障害者のことをよく知っていたわけではありません。

「点訳(点字に変換すること)」というと、点字の専門的な知識が必要で誰でも簡単にで

きるものではないと思われがちですが(実際の点訳ではパソコンと専用のソフトが欠かせ

ないと聞いています)、「情報の電子化」ならキーボード入力以外に特別な知識は必要あ

りません。「そのくらいのことなら自分にもできる」という人は少なくないと思います。

 パソコン通信の魅力はなんといっても「コミュニケーション」です。障害者でも情報の

発信者になれます。身体が不自由でキーボードやマウスの操作が困難な場合には、それを

補う入力装置を使います。たとえ入力に時間がかっても電子メールや電子掲示板でのやり

とりには支障がありません。性別、年齢などはもちろん、障害の有無も意識せずにコミュ

ニケーションができます。実際にあうまで相手が障害者であることに気づかないというこ

とさえあります。

 「ねがいネット」にときどき詩をよせる青年たちがいます。彼らは身体が不自由で富山

の重心病棟に入院しています。直接通信ができないので看護助手の人が代理でアップして

詩や病棟のレポートをしてくれます。東京の養護学校に通う高校生との交流もうまれまし

た。

 そうした彼らの詩にネットのメンバーが曲をつけました。「いい詩だから、曲にしたか

った」のだそうです。楽譜と録音したカセットテープが作詞者のもとに郵送で送られまし

た。その楽譜を見てピアノで弾いてくれる人があらわれたと聞いています。

 道具を所有することとそれを使いこなすことは同じではありません。まだまだパソコン

は家電のようには使いやすくないので、セットアップや操作は難しいし、障害者が講習会

に出かけることは困難です。また、公的な支援もほとんどありません。情報化社会から障

害者が取り残されることがないわけではありません。

 

  各地でひろがるパソボラ

 こうした障害者をサポートする「パソコン・ボランティア(パソボラ)」という取り組

みが各地で生まれてきています。パソコンの専門家でもない私も職場の近くに住んでいる

障害者の家庭を訪問してサポートしています。これができるのは、「自分がわからなかっ

たらネットでつながっている仲間に助けてもらえる」という保証があるからです。誰でも

できる身近なボランティア活動のひとつかもしれません。

 パソコン通信上では、情報アクセス、情報発信、そしてコミュニケーションにおいて「

目が見えない」「音が聞こえない」「言葉が不自由だ」といったハンディを感じなくなり

ます。

 しかし、さまざまな可能性をもつパソコン通信ですが、操作しやすい機器の開発、人的

サポートシステムの確立、著作権問題など大きな課題があります。

 日本障害者協議会情報通信ネットワーク特別委員会委員長の薗部英夫氏は、「情報にア

クセスできること、情報を発信し、コミュニケーションできることは現代の新しい人権で

ある。その権利は、知的な障害を持つ人も含めて、すべての障害者に保障されなければな

らない。障害者にやさしい機器は誰もが使いやすいものである。そして、障害を持つ人に

よい社会は万人のためにもよい社会であるからである」といっています。


AORINGO WORLDにもどる   EDUCATIONにもどる