表2 指導のめやす試案表

 

                     1999.12 櫻井 宏明

発達段階

子ども像

課題・活動の柱

配慮事項

発達年齢

 

A_外界を主体的に受けとめる_

 生理的基盤を整え、心地よい状態を整えてもらい、外界に気づき、受けとめていく。感覚器官への働きかけが重要である。

 移動、排泄、食事など大人の全面的な介助のもとに生活を送っていて、自ら外界に働きかけることが少ない。自力では動けない。排泄については、多くが「オムツ使用」。姿勢は、臥位が中心である。

 「生理的基盤」に問題を持つ子どもが多い。「体温調節や呼吸、排痰」、「睡眠・覚醒のリズム」に問題がある。発作についても重大な問題がある。さらに、摂食動作に問題をもつ。

 まひがあったり、筋緊張が高い体の変形を招くことが多い。肢体障害以外に視覚障害を併せもつ割合が高く、外界を受けとめたり、外界へ働きかけたりするときの大きな障壁になっているようである。

 大人からの働きかけに対しては、「笑顔などで反応」しても、自分からは働きかけられない。「笑顔が快の表現」であってもコミュニケーションの手段にはなっていない。

 遊びは体幹への感覚的な遊び、視覚的刺激や聴覚的刺激を受けとめて楽しむなどである。

(1)快の状態で、外界に気づき、感覚器官を窓口として外界を受けとめる。

(2)大人との活動の中で快の状態を体感し、大人と笑いあう関係を育て、コミュニケーション手段としての「社会的な笑顔」を獲得する。

(3)医療との連携のもとに健康なからだをつくる。

(4)子ども自ら外界に能動的に働きかける。*

 

1.体調が整わないと、外界の窓口が閉ざされ、受けとめにくくなる。学習の前提としても、体温や脈拍、呼吸に注意し、それらを整える取り組みが必要がある。

2.子どもによって受けとめやすい窓口や働きかけの方向性が異なので、子どもに合わせた働きかけ方を工夫する。ポジショニングにも注意する。

3.視覚、聴覚、触感覚など外界からの刺激は強すぎたり、複雑過ぎたりしない

4.「親しい大人」を中心に情動的共感関係が結べ、社会的笑顔で交流ができるように取り組む。

5.教師は、評価・共感をすぐにその場で表情豊かに行う。

6.医療等との連絡連携を密にする。

7.日課は帯状にゆったりする。

8.教員と濃密な人間関係が結べるように集団は大きくしすぎない。

 

0〜4カ月

 

B_外界に主体的に働きかける_

 外界に自ら働きかけながら、外界を取り入れていく。外界の窓口として「手の活動」が重要である。おもちゃなどに自分から手を出して掴むことリーチ)ができるようになる。

 親しい大人が分かり、人見知りもみられるようになる。次第に大人に注意を向け、自ら大人に働きかける

 姿勢については座位が中心となるが、肢体障害のために座位がとれない児童も少なくない。歩行や腹這いなどで「自力移動」を行う児童もいるが、限られた対象を除いて「目的をとらえた移動」とは言えない。

 日常生活に関しては、まだまだ大人の全面的な介助を要する。

 まだ生理的基盤に問題を残している。

 「感覚の過敏さ」や「常同行動・自己対象的行動」などの「問題行動」によって外界への働きかけが広がらなかったりするようなが多くみられる。外界へ注意を向けることが重要である。

 「感覚的あそび・遊具あそび」以外にも遊びに広がりが見られる。

 

(1)大人を支えとしながら、外界に自ら働きかけつつ外界を取り込む。

(2)親しい大人との関係を深めながら共感的に外界を受けとめる。

(3)簡単な見通しを持ち、探索的な活動を行う。

(4)大人の意図に合わせて行動を調整する。*

(5)生理的リズムを整えて、摂食動作を向上させる。

1.働きかける対象となるおもちゃを整える。

2.障害のために手が使えない場合は、手の替わりに足や口などでの活動を工夫する。

3.手や足の活動を行うために「座位姿勢」を安定させる。

4.立体的な世界を用意する。

5.外界への働きかけを誘い出す工夫をする。

6.「もっとやりたい」という意欲を大切にする。

7.いろいろな人との間で関係が結べるようにする。

8.教材を子どもと共感的に受け止めるサブの教師は子どもと教材の架け橋の役割を果たす。

9.活動の始めと終わりをはっきり意識させ、活動にまとまりをつくるようにする。

10.「定時排泄」の取り組みは「生活リズムづくり」の一環と位置づけられる。

 

5カ月〜9カ月

 

外界とのかかわりを調整しながら自我を誕生させる_

 外界とのかかわりを調整しながら自我を確立していく。「子ども_もの」「子ども_大人」の関係から「子ども_もの_大人」の関係(三項関係)を成立させていく。「大人との間で第三者を共有する活動」が重要である。

 「大人の求めていること(意図)が理解できる」ようになる。簡単な「ことばを理解」し、「指さしや動作、単語」を主なコミュニケーション手段として、大人に向かって「自分の要求を主張する」。

 日常生活に関しては、「介助に応えて体を動かす」も見られる。排泄は、「排泄を意識」し、「定時排泄」の取り組みが増える。

 動作模倣や「渡す・入れる・積む」(定位活動)が見られる。

 B段階に比べ、生理的基盤が整って、体調が安定してくる。

 姿勢は、肢体障害のために自力ではとれなくても「座位」が多くなる。さらに「つかまり立ち」も可能となる。「目的的な移動」ができるようになるが、「まひ・筋緊張の異常さ」によって「背這い」や「伸展の緊張を利用した寝返り」を利用して体の変形を進めることがあるので、それに代わる移動の手段を考える必要がある。

(1)大人へのあこがれが育ち、動作模倣が豊かになる。

(2)大人との関わりの中で、定位活動を獲得し、豊かに発展させる。

 

(3)友達と並行あそびをする。

(4)道具や言葉などを手がかりにシンボルの形成をめざし、みたて、つもりあそびをする。*

 

 

1.大人の使っているものへのあこがれを道具へのあこがれへと育てる。
2.「やりたい」「ほしい」という要求を高め、
二つを比べて、自分で選択できるようにする。

3.具体物を用意するなどして「_してから_する」など次の場面の見通しが持てるように配慮する。
4.
喃語幼児語の役割をふまえて、子どもへの指示やことばかけにことばを選ぶ。

5.子どもの発達と障害にあわせた道具などの工夫

6.子どもの発見に共感のことばかけを添える。
7.肢体に障害がある場合には、
移動手段を工夫する。

8.適切な援助をいれて活動をつなげる

9.前方からきちんと視線を合わせて働きかける。

10. 常同行動の中に働きかけの手がかりを探る。

11.外界への自発的な働きかけを増やし、自傷や常同行動が結果的に少なくなるように取り組む。

 

10カ月_1歳半

 

D_自我を確立し、シンボルを獲得する_

 自我を確立し、ことばに代表されるシンボル機能を獲得し、対人関係を広げていく。道具を使った活動や集団での活動が重要になる。

話し言葉で伝える」ことができて、ことばによる調整ができはじめる。相手の意図を理解し、簡単な大人の指示を理解できるようになる。大人に「自分の要求を主張」し、時には、大人の意図に対して自分の意図を強く主張する「ダダこね」が見られることもある。しかし、「自己主張の弱さ」という問題を持つ児童もいる。

 「〜してからする」という手順の思考を自らの中にも作り上げていく。

 道具に応じた調整を行い、「道具の使用」ができてくる。

 「みたて、ふり、つもり」ができはじめる。「なぐり描き」から「描いたものに意味づけ」をするようになる。

 「大人をモデル」として行動を広げ、友達のやっていること、見つけたものなどにも興味を示すようになる。

生理的基盤の安定がいっそう進み、「排泄のサイン」の確立が増える。一部に排泄の「自立」も見られるようになる。

 完全ではないが「かたづけ」ができてくる。

 ほとんどの子どもが何らかの手段で移動が可能。

(1)ことば・イメージを豊かにする。

(2)身近な道具を使い、作品を作る(えがく・つくる)。

(3)自然・社会 に関心を向け、友達との生活経験の共有を通してイメージを共有していく。

(4)大人の使っている道具へのあこがれを大人のしていること(仕事)へのあこがれへと育てる。

(5)友だちとの集団活動を通じて、ことばで自己主張し、自分の気持ちを立て直す。*

 

 1.適切な援助や介助を行いながら、「ジブンデ」という気持ちを大切に、「主人公」になりたい心を育てる。

2.肢体や言語などの障害にあわせて自助具を工夫し、AACの利用なども考える。

3.「もっと、もっと」という欲張りな心を育てる。

4.時間的な見通しが持てず、「〜する、〜する」という行動が「集中力」のなさとみられることが多い。

5.子ども自身にわかりやすい環境を整えて、生活の中で見通しがもてるようにする。

6.自分で気持ちを切り替えられるようにゆったりとした日課を組む。

7.「ダダこね」や「がんこさ」を否定的にとらえるのではなく、選択の力が育ってきたことの反映としてとらえる。「どう自己復元力を育てていくのか」を考える。

8.新しい場所などに入っていくときに心の支えとなるもの(「心の杖」)を取り上げない。

 

1歳半_2歳半

 

E_自我の拡大と自立心を育てる_

 自我がいっそう拡大し、反抗が見られることもある。「自分でやりたい」という自立心が育ち、生活技能の向上と相まって自立的な行動が増えてくる。

 日常生活の面で「自立」や「一部自立」が増える。「排泄サイン」の獲得や「定時排泄」の確立で、「おむつ等の使用」はほとんど無くなる。

 クラッチやウォーカー使用を含めると過半数が「歩行」可能。その他も「車椅子」「四這い・寝返り」で自力移動が可能となる。

 自分の要求を「言葉で伝える」だけでなく、問われたことに答えられるようになり、「会話が成立」する。

 「人の求めていることがわかる」ようになり、「お手伝い活動」や「順番、交代」ができはじめる。

「大きい−小さい」など対比的概念をことばによって理解する。「よい−わるい」という反対概念が育ち、よい自分になりたいと、大人に「励まされて自分で頑張る」。一方で、「できない自分」を意識して「苦手意識」が生まれ、新しい人との出会いが苦手になる。

 「みたて・つもり」の世界を友だちと共有し、ごっこあそびが活発になる。そうした遊びを通して、「好きな友だちができる」。

 はさみなど身近な道具を「意図をもって使う」ようになるが、上肢の障害によってこうした活動が制限されることも少なくない。

 「文字の読み」が一部できてくる。

 

(1)友だちと競い合ったり、順番や役割交代をするなどを通じて、ことばで行動を調整し、自分を律する。

(2)「ごっこ・劇あそび」や「音楽・身体表現」を通してコミュニケーション機能を向上させる。

 

(3)実感したことをことばで表現し、経験を概念化する。自然や社会に対してことばで認識を深める。

(4)調整活動が入った描く、つくる活動をする。

(5)対比的概念をことばによって理解する。

(6)中間の概念を育てる。*

1.豊かな生活を保障する。

2.机上での学習が可能となるが、体験したことを「概念化」する机上の学習と位置づける。

3. 肢体障害があるために思うようにできないので、電動機器も含め自助具を積極的に利用し、自立心を育てる。そうしたものを利用しての「お手伝い活動」をする。

4.子ども自身がやろうとして立ち向かっていることを励まし、できる経験をさせ自信をもたせ、苦手意識は克服する。

5.「もっと大きいもの」「さらに大きいもの」というあこがれを育てることで、中間の概念が育つようにする。

6.「文字」の導入は、すぐに書きことばにつながると考えるよりも、コミュニケーションを豊かにする手段と考える方が適当だろう。

 

2歳半_3歳

 

F_言葉で行動を調整し、友だちの中で自制心を育てる_

 ことばで行動を調整し、ことばを使って友だちと伝えあい、手をつなぎ、共同の目標を達成しようとする。そうした中で、自我を調整し、自制心を育てる。一つの目標に向けた集団での活動が大切である。

 仲間意識が育ち、「ルールのある遊び」ができるようになる。「じゃんけんのルール」がわかる。

 我慢をしたり、「恥ずかしいけどがんばる」など「自制心」が育つ。

 「まひ、筋緊張の異常さ」の割合はD、E段階に比べて高くても、認識能力に対応して、車椅子などの代替手段を利用するので、自力移動の割合は下がらない。さらに、日常生活動作の「自立」の割合は高くなる。

 「文字が読める」ようになり、「書き言葉」を獲得しはじめる。

(1)みんなで力を合わせて活動する。

(2)二つの制御を結びつけた行動を獲得する。

 

(3)文学作品などを通して複雑な感情を学ぶ。

(4)ことばによる概念形成を進める。

(5)集団で取り組む劇、音楽、絵画、身体表現活動。

 

(6)自己を見つめ、文章による自己表現活動を行う。*

1.わざと反対のことを言ったり、強がったりすることがある。子どもの揺れ動く心に寄り添う

2.「自分で最後までしたい」気持ちを大切にしながら、つまづいたときはいつでも、「一緒にがんばって見ようね」と支えてあげる

3.文字や数の学習は子どもの生活と要求に基づいて、教材のもつ文化性の高さで主導して、進める。

4.発話や動作に障害がある場合、複雑な感情は「YES-NO」だけの表現手段では表現しきれないので、文字が表現できるような手段(情報機器など)を工夫する。

5.ものの因果関係を事実に即してとらえるようになるので、「理科」や「社会」(「生活科」)としての学習が可能となるが、「学問的な系統性」ばかりを追求せず、子どもの生活実態を大切にする。

 

4歳〜_5歳半

 

G(書き言葉を獲得し、抽象的思考が可能になる)

 「書き言葉」を獲得し、「行動する前に計画する」、「表現する前に考える」など心の中で考える力=内面的思考を獲得する。視点を自分の外に移すことができ、多面的な自己理解ができるようになる。自分の障害に対する理解ができるようになる。

 豊かな中間的世界と系列化が進み、複雑な感情をもつようになる。

 文章を読んだり、書いたりでき(「書き言葉」)、学年相応ないしは下学年の教科学習を行っている。

 ほぼ全員が「歩行」「車椅子」「四つ這い」で自力移動ができる。

 進行性筋疾患障害の場合が高く、障害に応じて電動車椅子を使用する。日常生活のほとんどが「全介助」となっている児童もいる。

 「ルールあそび」のように友だち同士で遊べるようになり、「勝ち負けのチームゲーム」などのようにみんなで協力して一つの大きな目標をやり遂げるようになる。

 

(1)書き言葉の基礎となる力を豊かにする。

(2)表現活動(音楽・絵画・身体表現)を豊かに発展させる。

(3)すじみちたてて自然・社会に対する認識を深めていく。

(4)具体物操作から数字での操作を行う。

 

(5)障害の理解をすすめる(障害理解教育)。

(6)直接見えない人やものを想像したり、類推したりして認識を広げる。*

1.「書き言葉」を「実際に描く前に頭の中で描く力」、「目の前にいない空間的、時間的に離れた人に筋道立てて事実や気持ちを伝えられる力」ととらえる。

2.そのためには文学を鑑賞したり、詩や作文を創作したりする「国語」、絵画や音楽、舞踊などの表現活動、事実を見つめ、筋道立てて考えることも重要である。

3.日常生活「全介助」のどもが受動的な生活にならないように自己決定る場面などを工夫する。

4.障害のために書字動作が困難な子どもには、入力環境を整えて、情報機器などを利用させる。

5.障害理解教育は本人の障害だけに限らない。

6.教科別の学習形態にこだわらないで、子どもの生活実態に即して「テーマ学習」など柔軟に考える。

5歳半〜

    注)「子ども像」では、実態を反映し(その発達段階に属すると推定される全児童の中で割合が高い項目、

        他の発達段階のグループの傾向と比べその差が顕著な項目)、重要だと思われることを取り上げた。

                                       * 一歩先の課題

 

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